「俺は、嫌いって言わなきゃだめだった。嫌いなところはいっぱいあるし、嫌いになれるのに。でも、なかなか、嫌いって、言えないもんだな」
一体、何があったんだろう。
口が固くなって、言えなくなった。あまり聞かないほうがよさそうで、私は口を紡ぐ。
深夜。世界は暗く海に沈んでいるようだった。流石に、少し瞼が重くなった。体が規則的に夜眠くなるのは、よくわからない。
「…眠たい」
思わずはっと呟いてしまった。
「眠たいの」
「あ、いや、…朝くんは、眠くないの?」
「眠たくない」
確かに、彼の瞼は、うとうとしている様子もなく瞼が重くなったりもしていなさそう。
「いいなぁ眠くならないの」
私が呟いた言葉は、雨に消えていった。
「俺も、羨ましい」
「…え?」
「眠たそうな翠さんが」
私に送る彼の目の表情は、あまりよくわからなかった。
「ひるは、元気にしてる?」
「俺の記憶は忘れたくせに、なにひるのこと覚えてんの」
頬を膨らませた朝くんに、「あ、ごめんごめん」と笑ってしまった。
「まあ、ひるは元気にしてるけれども」
「そっか。…ん?あ、また毛ついてる」
彼の肩辺りに、猫の毛と思われる色のついた毛が付着していたので、とってやった。