俺、あなたのおかげで真っ直ぐ澄み渡った空を飛べたんだよ。
あなたのおかげで。
母さん、あなたの、あなたの。
「俺の名前…、真澄って……言います」
あたまのなかには伝えたい言葉が錯乱しているというのに、実際なにも言えやしない。
名前をつけてくれてありがとう。
俺を守ってくれて、ありがとう。
言わなきゃ、はやく、はやく。
「……!」
ま、す、み─────。
確かにそう型どったんだ。
俺の名前を、彼女の赤い唇が丁寧にひとつひとつ。
「また…っ、…会え、ますか……?」
今日みたいな機会は2度と御免だけど、お互いに名前も素性も伏せていいから。
あなたのことも聞かない。
顔を見るだけとか、それだけでもいい。
そんなやり方でいいから、会える……?
会っても、いい……?
「…………っ、」
否定も肯定もしてくれない。
しないんじゃなく、できない。
ただ再び背を向けてしまう寸前、泣きながら不器用に微笑んでくれた表情からは。
ばかね───なんて、母親らしい返事が聞こえたような気がした。
*