一歩一歩の足取りが重かった。

リュックも重い。

教科書がたった数冊入っているだけなのに。

心も重い。

いつも乗るバスにも今日は足が震えた。

着慣れない制服が落ち着かない。




いつもより時間をかけて学校に行った。そして今、教室の前。




頭の中でイメトレはしてきた。開けたら、何もなかったように席に座るんだ。そしたら彩音たちが来てくれるはずだから……。でもいざ教室を前にすると怖くて扉を開けられない。帰りたい。そんな思いが頭をよぎった。


……それでも、やっと学校に来れたんだ。




今日は、逃げたくない……。


……行こう。


がらっ。

勇気を出して扉を開けた。





ぴたっ。…---








みんなの話し声が止まり、一気に視線が自分に集まる。変な汗が出て全身に力が入りっぱなしだ。びくびくしながら自分の席に座った。


あぁ、やっぱり怖い。逃げたい、怖い、逃げたい、逃げたー




「夏樹‼」




顔を上げると目の前に色葉と彩音がいた。


「おはよ!」


元気百倍の彩音。


「学校来れたじゃーん!偉い偉い」


色葉は俺の頭をポンと撫でた。


「お、」








「おはよ」




緊張が解けてふにゃっとなる。



「よかったー!元気そう。」

「学校はいつぶり?てか、髪切ったんだね。似合ってる。」

「う、うん。ありがとう、」

「まだ五月でよかった!これから行事いっぱいあるよ!一緒にできるね!」



よかった、二人とちゃんと教室で話せた。嬉しい……。

朝のHRが終わった後、担任に呼び出された。



「いやぁ、びっくりしたよあの電話。」

「急にすみません。」


実は休日中に担任に電話をかけていた。月曜日から学校に行く、と。ついでに麗華ねぇに頼んで美容室連れて行ってもらったんだ。髪の毛ボサボサだったからさ。


「でもどうした急に。」

「…やってみたいことが見つかったので。」

「そうか。それはよかった。なんかあったらいつでも言えよ。」