そう長い時間は待たないうちに、「もう30分くらいで出れそうだ」と飯島さんから連絡が入った。


 ここで待っているよりいいだろうと思い、彼の会社の最寄り駅まで移動することにした。


 飯島さんが指定したのはホテルのバーだった。

 とりあえずロビーで待っていることを告げた俺は、到着してから10分くらい彼を待っていた。


 ロビーに着いた飯島さんは、俺をみつけると軽く手をあげた。

 つられるようにして俺も頭を下げた。


 エレベーターに乗って最上階に到着すると、いつものオヤジさんの店とはまるっきり別の空間が広がっていて、

 こんな場所に来たことのなかった俺は少し気後れし、彼の後に黙ってついていくしかななかった。


 カウンター席に腰かけた飯島さんは、その姿がとても様になっている。

 俺の方はといえば、ダウンジャケットの下はグレーのなんてことないシャツにジーンズというバイト帰りの陳腐な格好だ。

 隣りに腰かけながら、何となく気が沈んだ。


 飯島さんがオーダーした酒と同じものを頼み、

 酒が出てくるまでの間、俺たちは無言のまま腰かけていた。


 飯島さんがタバコを取り出して火をつける。

 薄暗い空間でやけに赤々と灯るライターの火を眺めながら、俺は尚も黙り込んだままだった。