ベンチでホットドックを頬張りながら、

 ペンギンやシロクマはこんな寒い中であんな冷たそうな水に入って寒くないのだろうか、とか、

 トラもライオンも寝そべったままで元気がない、とか、

 カバの口は改めて見るとホントに大きい、とか、

 小川さんは本当に楽しそうに喋っている。

 目はしっかりハシビロコウに向けたままで。


 俺はその話にうんうんと頷いていたけれど、

 彼女が話す動物の動きをなかなか頭に描けずにいた。


 なんでだろう、と思ったけれど、答えは簡単だった。

 園内を歩くあいだ、俺の視線は小川さんばかり捕らえていたのだから。


 動物の様子よりも、子供の様にはしゃぐ小川さんを見ているほうが楽しかったし、

 太陽の下で輝く髪や、ころころと変わる表情をそっと眺めているほうが嬉しかったのだ。


「藤本くん?」

「え?」


 ぼんやりと小川さんの顔を見ていた俺を、心配そうに覗きこんだ彼女は、


「ごめんね、私ばかり喋って。藤本くんは何が一番面白かった?」

「あ……えっと」


 答えられない。困った。


「ええっと…やっぱり、アイツですかね」


 とりあえずハシビロコウを指差すと、


「やっぱり? あの子、面白いよね。でも…動物園に来たのに鳥が一番気に入るなんて、私たち、少し変かもね」


 ふふっと彼女は笑った。


 私たち…

 その響きが単純に嬉しかった。



 太陽は雲に隠れることなく園内を照らしている。

 ベンチに腰かけた俺と小川さんの影は、アスファルトにくっきりと映し出されていた。

 並んだ影を見ながら俺は、この時間がずっと続けばいいのに…と本気で願った。