昼を少し回ってから、俺と小川さんはベンチで昼食を摂ることにした。
園内のレストランで、という俺の提案に、
せっかくだから外で、と小川さんは言った。
動物を眺めながら食べたいのだと言う。
正確には、すっかりお気に入りになったハシビロコウをもっと観察したかったらしい。
俺と小川さんはホットドックやコーヒーをテイクアウトし、
ハシビロコウの近くのベンチに腰かけた。
一瞬の動きも見逃すまいとしてハシビロコウの檻に視線を向ける小川さんの姿は、
園内にいるどの子供たちよりも真剣そのものだ。
「あ、歩いてる」
ハシビロコウがゆっくりと檻の中を移動し始めると、
小川さんは持っていたホットドックを前に突き出して喜んでいた。
「ちゃんと歩くんだね」
「そうですね」
「動くところが見れて嬉しい」
「嬉しい、ですか」
「うん」
今日は比較的暖かい。
けれどそこは冬の空気の下だ。
小川さんの鼻の頭は薄っすらと赤く色付いている。
「寒くないですか? やっぱりレストランに移動します?」
また風邪をひいてしまったら可哀想だと思い、そう言ったのだけれど、
「ううん平気。外でご飯食べるなんて何年もやってないから。このほうが新鮮で面白い。
あの子の姿も見れるし」
小川さんは満面の笑みで答えた。
隣りに座る俺を見上げて。
その笑顔に、俺は一瞬息を呑み、
そして、癒された。
来て良かった、そう思った。