「すっご……。家に実験室なんてあるわけないって、今まで本気にしなかったけど……。確かに、これは実験室だ」
自称、ではなく。れっきとした実験室を観察しながら歩いていると、コツン、と。足に何かがぶつかる。
それは――
「万年筆? でも使われてなさそう……」
少しほこりをかぶっているし、ペンの先を走らせても色が出ない。
おかしいな。先生は論文を書く時、必ず手書きなのに。
不思議に思って、机上を見る。すると、マス目のついた用紙が広がっている。
それと一緒に、
「〝半獣人の研究について〟って……これ、先生の論文?」
分厚い紙が束ねられている。
一番上には表紙があって、論文のタイトルも先生の名前も、きちんと入ってる。日付も今日のものだ。
え、まさか先生、
論文を忘れて行っちゃったのー⁉
「ば、バカじゃないの、あの人はー!」
論文を掴んで、急いで家を出る。
今なら、まだ間に合うかも!
だけど――
私の想いとは裏腹に、すぐに先生に会えた。
だって先生は、どうしてか桜の木の下にいたから。