「……心配しなくとも。獣人の研究をしてるからと言って、翠々香のことを公にはさらさないよ」

「! そういうことを心配してるんじゃ……ありません」

「へ?」


片方の眉は上がり、片方は下がり。

……これは、完璧に分かってない顔。


「もう、なんですか。その顔。力が抜けました。

もういいですよーだ。

洗濯ものを私にください。まとめて持って入ります」

「……」


先に家に戻る私――を、しばらく先生は見つめた。

かと思えば「翠々香」と。優しい声で私を呼ぶ。


「心配しなくても、もうすぐだから」

「……論文の提出が、でしょ? 知ってます」


だから、わざわざ言わないでよね!

ぷんすか家に入る私を見て、先生は「はは」と笑った。

そんな先生を、家の窓から眺めていたのだけど……


「なんか先生、機嫌が良いような?」


笑う先生につられ、私も口角が上がった。そして気分が良くなったところで、洗濯物をたたみ始める。

外では先生が「もうすぐ夜桜になるよー、花見する?」と。呑気に空を見上げていた。



✲*゚



そしてあっけないほど、すぐ。

その日はやってきた。