いけない。
考え事してたら、洗濯物を落としちゃった。

拾おうと、慌てて手を伸ばす。

すると――

パシッ


「え」
「あ……っ」


先生と、手が触れた。

同じく、自分のシャツを拾おうと手を伸ばした先生。

その細長い手に、ゴツゴツした手に……私は、

初めて、ゆっくりと触れてみた。


「翠々香?」

「……ねぇ、先生」


私たち、こんな近くにいるのに。

手が触れ合える距離にいるのに。

そろそろ離れ離れなんですよ。信じられますか?


「論文を発表しないで……って言ったら、どうしますか?」

「え」

「……っ」


賭けだった。

先生がなんて言うか、想像すら出来なかった。

ぎゅっ、と。
ドキドキする心臓を押さえて、先生の言葉を待つ。