「あれはね、翠々香と会った日から、すぐ開発を始めた抑制剤だよ。

発情を押さえる薬は、マイナス温度でしか保存がきかなくてね。せめて美味しく食べてもらおうと、アイスにしたの」

「そう、だったんですか……。じゃあ、発情期になった時は、あのアイスを食べればいいんですか?」


架千先生は、コクンと頷く。

そっか、じゃあ……もう発情期に怯えなくていいんだ。

あのアイスさえあれば、安全だもんね。


「にしても――翠々香が発情すると、どうやらオスを呼び寄せるフェロモンが出るらしい。

そのフェロモンは、番(つがい)を見つけるまでやまないだろうね。動物とは、本来そういう生き物だからね」


ま、人間も同じようなものだけど――と、ちょっと大人な顔になる先生。


「……あ、」


今まで見たこともない先生の表情を見て――それを「男の人の顔」だと認識した瞬間から。私の体が、少しだけ熱くなる。

しまった、また発情してるのかも……!と心配したけど、先生はノーダメージ。


「オスを呼び寄せるはずなのに……なんで?」

「?」


先生が私を見つめた時、熱の正体が分かった。

あぁ、これ……「恋」の方だ。