先生は、私が持つコップに目をやった。

水面が波打っているのを見て、「怒ってる?悲しんでる?」と。まるで研究の一部みたいに聞くもんだから、腹が立つ。


「どっちも、です!

あの日、朝〝発情してる〟って教えてくれてたら、私は学校へ行かなかった。男子に襲われることもなかった。

それに……

もしかしたら将来、学校に通えなくなるかもしれないって……。そんな悲しい事実を知ることもなかったのにっ」


ぽたっ


私の目から涙が零れ落ちたのを見て、先生が呟いた。

「〝もしかして〟という可能性だけだった」――と。


「通常ウサギは、生後三か月ほどで発情期が訪れる。そして翠々香が半獣人になって、三か月目に入った。

あの日、翠々香の顔が赤かったことと照らし合わせて〝もしかして〟と。その可能性を見出しただけだった」

「……可能性が当たって、良かったですね」


嫌味を込めていう言うと、鼻をむぎゅっとつままれる。

ふがふが鼻息を荒くする私に、先生は静かに否定した。