「殿下、わたくし、お願いがあるのです」

「なんでしょう」


何でも言ってくださいだとか、私に叶えられることならだとか、殿下はそういう甘ったるいことは言わなかった。


代わりに、わたくしのお願い(・・・)が、よく精査されているに違いないと信じている言葉選びをしてくれた。


この方は、信頼を形にして示すのが上手い。


「よろしければ、お食事をご一緒したいのです。できるだけ、朝食と夕食はご相伴に預かってもよろしいですか?」

「ええ、もちろん。明日からそうしましょう。あなたとお話する時間が増えて嬉しいです」

「ありがとう存じます」


うーん、と心の中で思う。わたくしの婚約者、最高。素晴らしい。未来の夫がこの方でよかった。


物は嬉しい。病気と悪口以外は、もらえたら基本嬉しい。


でも、お互いに対等だと示し、こちらを信じることによって尊重し、今後の結婚生活を明るくしてくれる態度が、何より嬉しい。

毎日話すのに、言葉選びが合わないのは致命的だもの。


配慮に満ちた穏やかさに、心が弾んだ。