一日の終わり、明るさは変わらないけれど、オルトロス王国では便宜的に、夜と呼んでいる時間。


「屋敷の者たちに優しいお言葉をかけてくださったそうですね。ご配慮ありがとうございます」


殿下が部屋を訪れてくれ、わたくしたちは向かい合って椅子に座っていた。

あの侍女は、昼のわたくしの様子を、喜ばしいできごととして報告したらしい。


「伝えられる関係を、尊く思いますわ」


使用人が雇い主に報告するのは当然である。


それを事務的にするか、主観を入れるかというささやかな違いがあるだけで、どちらにせよ、侍女はわたくしの言葉の要旨を述べなければならない。

侍女が報告した内容が明るいものであれば、それを聞いた殿下が、わたくしに話をふるのも自然な流れ。


けれども、侍女が怯えていればこうはいかない。やはり殿下は、このお屋敷の人々とよい関係らしいわ。


「私も、あなたがお優しいことを、嬉しく思います」

「ありがとう存じます。とてもよくしていただいていますもの。おかげさまで楽しく過ごしていますわ」

「それは何よりです」


にこりと笑った殿下に、なるほど選りすぐりのよい侍女だわ、と改めて思った。


わたくしが殿下に伺うと言ったのを、きちんと伝えたらしい。報告を聞いたはずの殿下から食事の提案がないのは、わたくしからのお願いを待ってくれているということだもの。


よい侍女だわ。そして殿下はよい方ね。