「……ミエーレ。そなた、分かっているのか。相手はオルトロス王国ぞ」

「ですから、申し上げているのですわ」


顔を上げる。

おそらくお父さまはこのあたりに立っている。誠意よ伝われと、布越しにでも目を合わせる。


「わたくし、自分が『みの虫姫』と呼ばれていることは存じております。このまま我が国で日の光を恐れて暮らすより、夜の国で星明かりを眺めて暮らす方が、よほどお役に立てるものと考えます」


誰も何も言わなかった。おそらくお父さまは考えあぐねていた。


第二王女がみの虫にならずに済むのは、暗闇の中。条件は悪くない。


わたくしは、夜の国に差し出すのにちょうどよい娘なはず。


社交は不慣れだけれど、わたくしもお姉さまと同じ教育を受けている。

第一王女は難しいが、第二王女なら可能だと言えば、同盟の体裁を取り繕える。


「そなた、それでよいのか」

「喜ばしく存じますわ」


にっこり笑って請け負った。見えないものの、笑ったのは声色で分かったはず。


「では、そのように返事をしよう」


ありがとう存じます、というわたくしの受け答えは、大きなざわめきにかき消された。