アステル殿下から、侍女は王女に仕えるのが初めてだと伺ったわ。


それはそうよね。オルトロス王国の王族の方々に仕える家は、きっと代々それを仕事にする家よ。


そうあれと育てられ、将来はこのお方にお仕えするのだと努力し、このお方のためならと夢見てきた若人に、突然、仕える主人を変えよとは言えない。

そんな仕事は誰も選ばない。無理に変えさせては今までの信頼を裏切ることになるわ。双方に得がない。


だから、殿下ご自身の派閥の中から、なるべく優秀で、そこそこの身分のある、許容範囲が広い娘を選りすぐったのだと思う。


どんな相手かも分からぬ婚約者、しかも身分は王族。一つ間違えば当然首が飛んで戦が起きる。

その、とんでもない火種を受け入れられそうな貴族女性を侍女に選んでくださったはず。


王女付きの侍女が、たったの五人。十倍したっていいくらいの人数だわ。


でも、五人よ。この五人は、殿下にとって、信頼できるということ。すごいことだわ。

殿下のこれまでの人徳と、仕事をきちんとこなせば将来箔がつくことを売りにして──逆に言えばそれしか売りにできずに、五人に、この不透明な仕事を選ばせたのだ。


どんなに不安だったことでしょう。本人も、ご家族も、殿下も、わたくしに対する思いがさまざまあったに違いないわ。


わたくしは、それに応えなければいけない。応えたいと思う。


できるだけ穏当にわたくしの評判を上げ、できるだけ早くこちらに馴染み、できるだけ殿下の人望を損なわずにいたい。

わたくしのせいで、アステル殿下にご迷惑をおかけするわけにはいかないもの。


殿下は立派な方だから、こちらに向かってお手柔らかになんて頼まなかったけれど、なるほど、不慣れな侍女は顔をつくるのが下手と見える。


まだ悔いていそうに口ごもるものだから、言葉をゆっくり選んだ。