「ミエーレさま」

「なあに?」


侍女が控えめに口を開いた。


侍女から声をかけてくるのは、とても珍しい。この屋敷の人々は、物事の道理をよくわきまえている。


「もしかして、いつも、わたしどもが起こしに伺うまで待っていてくださいましたか」


沈黙は肯定である。しかし沈黙したままでは不興を買ったと勘違いさせる。

そうねえ、と相槌とも肯定ともつかない返事をした。


実を言うと、確かにわたくしは、いつも起きてからしばらくの間、ベッドでのんびりしている。


わたくしが早く起きるということは、侍女たちはもっと前から起きて準備をするということになるのだもの。

それは、この国の常識に照らせばあまりに負担をかけるわ。


王族として生まれついたから、世話をしてくれる人がいる暮らしには慣れている。


早く起きてしまうのは、今までの習慣がそうさせるだけ。文化が違う国で、わたくしが不慣れで目が冴えているだけかもしれない。


習慣は繰り返しによって形作るものだから、わたくしがもう少しこの国に慣れて、もう少し、この国の普通に近寄ったらいいだけの話よ。


だから、誰にも言わず、祈るように待って、時間をかけていた。


わたくしは友好の証。お世話になる身。受け入れてもらう側。なるべくオルトロス王国の人々の負担を軽くしたい。