「別に良くない?選挙もしないで入れるなんて異例中の異例だし、お得だよ?」
「黙れ。誰がそんな面倒くせぇもんに入るかよ」
「えー。なんで?入ってくれないと僕達、困るんだけど~」
「知らねーし。勝手に困ってろ」
「そう言わずさぁ、入ってよ。じゃなきゃ行事までしょぼくなっちゃうし」
天使の仮面を被った悪魔が言ってはいけない発言を鬼に放ちまくる。危機を感じた雄大から助けて欲しいって顔をされたが、首を横に振って苦笑い。無茶を言うな。この状況を乗り超えるスキルは生憎持ち合わせていない。それこそ理央くらいしか。
「どういう事だよ」
「あ、うん。単刀直入に言うとね、僕達は君に生徒会のメンバーに入って欲しいと思ってる」
「校長に頼まれたから?」
「そうじゃない。勿論それもあるけど、1番の理由は菜々の頭の悪さを見兼ねたからだよ」
「……菜々の?」
「そう。校長にも次の期末テストで80点以上を取れるようにしろ、じゃなきゃ学校の行事に力を入れてやらないぞって脅されててさ」
存在しない話をさも事実のように、理央は困ったような笑顔で澤田君に話す。いきなり理由として抜擢されてしまった私はそりゃビックリ。『何ですとー⁉』と驚きいっぱいの顔で理央と澤田君を二度見してしまう。そんな事実、あり得ない。100パーセント噓だ。そもそも中間テストの結果がオール赤点だった私が80点以上なんて無理。不可能。
この腹黒男め。さては私を利用してこの危機から逃げるつもりだな……。澤田君の『それは厳しい』って納得している顔が、私の導き出した答えが正解だと告げている。しかも何が嫌かって、その案を本当の話として通してしまいそうだから。校長も澤田君を更正出来れば取り敢えず何でもいいとか言って頷きそうだし。
「だったら別に生徒会に入らなくても。勉強は教えられるだろ」
「いや。菜々は週のほとんどをココで過ごしているから」
「それと俺の生徒会入りに何の関係があるんだ?」
「大ありだよ。生徒会室に出入り出来るのは生徒会メンバーだけって決まってるし」
「知るか。特例を出せ」
「それは無理だよ。学校の決まりだから」
「変えりゃいいだろ。何のための会長職だ」
手を変え品を変え理央は澤田君の追及を上手く誤魔化していく。だが、澤田君は面倒くさそうに理央の提案を跳ね除ける。絶対にそうなるだろうとは思っていたけど、やっぱりか。
「とにかく絶対に入らねぇぞ、俺は」
「そこを何とか」
「ぜってぇ嫌」
必死に説得をする理央に澤田君は心の底から嫌そうな顔を浮かべる。何が何でもお断りだ、って。うん。まぁ、そうなるよね。分かってた。あれだけ来ること自体、嫌がっていたし。どれだけ理由をつけようが説得は厳しいと思う。
一応、澤田君には【補佐】の役をやって貰うことが既に決まっている。これはその名の通り他のメンバーの手伝いをしたりする役で、校長を含め生徒会のメンバー全員で事前に話し合った結果そうなった。
他の役は今のところ空いてないしね。立候補をしてノリノリで選ばれた私達とは違って澤田君は殆ど強制みたいなもの。あまり重い役を任せても嫌がって来なくなるだろうってことで。
正直に言えば補佐が単体でする仕事はあまり無い。とはいえ生徒会全体としての仕事は山ほどある。だからこそ平和的に入って貰いたい。でないと全体が上手くいかなくなる。
「飽くまでも【補佐】だし。特に難しいことをやって貰うこともあまりないから」
「それでも嫌なもんは嫌だ」
もういい。だったら帰る。と澤田君は理央を睨み、生徒会室から出ていこうとする。だから忍ばしていた鳩のピーコをノートから取り出したように見せかけて部屋に放った。頭の良いピーコは小さく羽を羽ばたかせ、ドアの前に立っていた澤田君の肩に止まる。
「おやおや。ココに来た本来の目的を忘れていないかね、澤田君」
「忘れてねぇ。お前のテストの珍回答を見る、だろ」
「それもだけど!マジックの種明かしを知るのも重要なことだから!」
出来れば勉強なんかしたくない。それが私、松戸菜々の本音だ。だからこそ食い気味に澤田君に言った。そう。これは澤田君が知りたがっていたマジック。面倒くさがりで反逆心の強い澤田君が、ついつい出会ったばかりの女の願いを聞き入れてしまうくらい、タネや仕掛けを知りたがっていたマジックだ。
ポケットからそっとスマホを取り出した彼の様子を見るからに、興味を引き付けたのは言うまでもない。何ならこのままマジックに夢中になって勉強のことは全て忘れてくれればいいのにと思う。
「そこも覚えてるって、ちゃんと」
「そうですか」
「しかし、すげー。本当に出せるのな」
「ふふん。鳩のピーコです。可愛いでしょう」
「あぁ」
「可愛いでしょう!」
「可愛いよ!」
語尾を荒げて『可愛いと言え』と圧力をかける私に澤田君は素直に従った。絶世の塩顔美男子から容姿を褒められたピーコは嬉しそうに首を伸ばして澄んだ瞳を輝かせる。澤田君の方だって、ピロリンなんて音を立てて写真を撮っているんだから既にピーコの虜。よし。このネタは使える。
「いいですか、澤田君。このマジックで重要なのは、まず鳩と仲良くなることです」
「ふーん。鳩とな……」
「仲良くなるには毎日、愛情を込めて話し掛けながら餌をあげることが大事なんですよ」
「へぇー。話しながら餌をかぁ」
「そう。後は言わなくても分かりますね?」
くいっと眼鏡をずり上げて大真面目な顔で澤田君にもっともらしいことを言う。そんな私にピーコが同調するようにクルックーと鳴く。さすがピーコ。空気を読むのが上手い。
「だから毎日ココへ来いってか」
「そうです。そのついでに私へ勉強も教えて貰えれば」
「だったら(仮)メンバーってことにする?」
「お試しで生徒会に入るってことか?」
「うん。それなら生徒会室にも入れるし、ありだよね?」
説得にかかる私の横から理央が書類を差し出し澤田君にふんわりと笑い掛ける。「はい」と澤田君にペンを渡して「ここに名前を書いてね」と軽い感じに言っているけど、それを書いたら最後。生徒会のメンバーとして正式に採用され、任期を終えるまで辞められない。
(仮)なんて口だけ。言ってみれば気持ちが追いつくまで待っていてあげるの(仮)だ。どうにかこうにか丸め込んで強制労働をさせる気、満々なはず。
ほんと優しい顔をして中身は鬼畜だ。それにしても散々反対していたわりには皆、メンバーとして入って貰おうと必死になっているんだから、あの校長もなかなか見る目がある。引き受けたからには全力で、それが我ら松之木生徒会執行部メンバーの長所なのかも知れない。
「おい、菜々。いつまで俺を待たせてんだ」
土日を挟んで月曜日。授業が終わって帰宅する生徒で溢れ返る教室の隅っこ。澤田君が私の姿を見つけて不機嫌そうにつかつかと歩いてくる。
待たしたと言ってもせいぜい5分程度のはず。しかし、澤田君はえらくご立腹だ。もしかして俺様は待たされるのが嫌いなのか……?と疑問が浮かび上がる中、がっつりと腕を掴まれる。
別のクラスの、しかも大勢の生徒の前だというのに教室の中まで入ってきて大胆な。戸惑って思わず「ひぃっ」と声を上げてしまったことは許して頂きたい。
「菜々ちゃん……!」
「あ、ごめん。平気、平気」
クラスメートがギョッとした顔で心配してきたが、片手を上げて宥める。それでも不安そうにされてしまった。だが、ビビられている側の澤田君は平然とした顔だ。
この男、自分が注目度1000パーセントの学校1目立つヤンキーだって自覚がまるでない。もれなくクラスメート全員の視線を独占しているのにだ。
当たり前のように私を教室から連れて行こうとなんかして。ごく普通の一生徒として振舞っても周りからすれば違和感がありありなんですよ。
「先生、呼ぼうかっ⁉」
「いや、呼ばなくていいから」
「でもっ!」
「大丈夫、大丈夫」
今にも職員室に走り出しそうなクラスメートに手を振り、澤田君と生徒会室に向かう。周りの生徒が何事かとジロジロ見てきたけど、そこはもう華麗にスルーだ。
「ちゃんと授業に出たんですか?」
「まぁな」
「1時間目から6時間目まで?」
「出たよ。ホームルームはサボったけど」
「あぁ、それで早かったんですね」
生徒会室に向かって歩きながら廊下で澤田君と話す。
なるほど。だから待ち時間が長く感じたのか。納得。それにしてもこのヤンキー、頼んだ通り授業にはちゃんと出てくれたらしい。
つい数日前まで皆勤賞を取る勢いでサボっていたくせに律儀な。見た目とは違って意外と真面目なのかな?なんてったって全教科95点以上を取るような頭脳を持っているほどだし。
「お前はちゃんと真面目に授業を受けたんだろうな?」
「当たり前じゃないですか」
「本当か?授業で使ったノートを出してみろ」
疑うように言われて内心ドキリ。躊躇しながらもおずおずと鞄からノートを取り出す。
開いたノートにはびっしりと書かれた丁寧な文字……ではなく、ピーコの愛らしいイラストが描かれている。ウインクピーコ、飛びピーコ、お昼寝ピーコ、我ながら良い出来だ。模写とまではいかないが、上手く特徴を捉えて描かれている。
「どうです?上手いでしょう?」
「アホか!」
得意げに微笑んだ私に澤田君は勢い良くビシッとツッコミを入れてきた。廊下の壁にノートを叩きつけて心の底から呆れたような表情だ。疲れたとでも言いたげに溜め息まで吐かれて思わず苦笑い。
うん。私が悪いのは分かってるよ。でも、勉強は嫌いなんだもん。
「やる気あんのかテメェ」
「ありません!」
「ありませんじゃねぇっ。出せ‼」
キッパリと言い放った私に鋭い眼光を放ち、澤田君は「せめてこれくらいはやれ」と言って鞄の中から自分のノートを取り出した。渡されて見てみれば、色まで分けて綺麗に分かりやすく纏められている。参考書みたいに。
「……凄いですね。誰から巻き上げたんですか?」
「盗るか!自分で書いたに決まってるだろ」
「えぇっ⁉」
その見た目で?この綺麗なノートを?ちまちま色まで変えて分かりやすく?
そんなバカな。あなた、泣く子もぶん殴る狂暴な不良じゃなかったんですか?と目をカッ開きながら驚く。人は見掛けによらない、とはよく聞くけども、その言葉が本物だったと初めて知る。
「お前も明日からこうやって書け。話はそれからだ」
「えー。こんな参考書みたいに書けないッスよ」
「このくらい普通だ、普通。つか授業中にペットの絵を描いてる方がおかしいだろ」
明らかに授業中にガムとか噛んで昼寝をしてそうな見た目をして、澤田君は私にお説教をする。信じられない。教師も匙を投げるようなバチクソヤンキーなのに。
「ちなみに一応言っておきますが、ピーコはペットじゃなくて私の相棒ですからね」
場所は変わり生徒会室。ピーコに餌を与えていた澤田君に重要な事実を告げる。ピーコと私の間には主従関係なんてないもん。人生を共に羽ばたく相棒だ。
「何も自分から鳥頭だと言わなくてもいいだろ」
「ピーコは頭が良いですからね。自ずと私も頭が良いってことになりますね」
「違う。アホって言ってんだよ」
「失礼な!今、澤田君は全鳥を敵に回しました!」
透かさずツッコんでくる澤田君にビシッと指を指して全鳥の気持ちを代弁する。私をアホ呼ばわりするのはいいけど、ピーコ達をバカにされるのは許せない。
「見ておけ、澤田。明日から貴様は行く先々で鳥の糞と羽攻撃に合うだろう」
「不吉な予言をするな!」
ピーコを腕に乗せ、腹話術を楽しむ私に澤田君は物凄く嫌そうな顔をする。ピーコがタイミング良く「クルックー」と鳴き、羽をバッサバサと揺らしてくれたのにも関わらずだ。どうやら彼はあまり冗談が通じないタイプらしい。
「楽しそうだねぇ」
「だろん」
「いつの間にそんな仲良くなったの?」
淑女も秒で口説き落とすモテ御曹司、広報の慶彦がキラキラオーラを放ちながら興味津々な顔で私達を見つめる。
机に置いた腕の下には慶彦が作成した今月の生徒会新聞。内容はごく普通の物で部活についての紹介が書いてある。
「勘違いすんな。仲良くはない」
「えぇっ?自分達マブダチじゃないんスか?」
「いったいドコをどう見たらそうなるんだ?」
「だってほら、息がピッタリじゃないッスか」
「そう思っているのはお前だけだ」
友情ごっこをする私を鼻で笑い、澤田君は照れくさそうに頬杖をついてそっぽを向く。ははーん。さてはツンデレか。可愛いやつめ。
「仲が良くて何よりだよ」
「だね。勉強もちゃんと教えてくれているみたいだし」
「これで菜々さんが留年をする心配も無くなりますね」
理央と鈴花と雄大が私達の隣でのんびりと紅茶を啜りながら、にこやかに笑う。
あ、そっか。と思い出して視線を下に向ければ、机に置かれたノートが寂しげにこちらを見ていた。早く続きを書いてよ、と言っているみたいに。
そうだった。今は澤田君に理科の勉強を教えて貰っている最中だった。すっかり忘れてた。
「ごめん。澤田君」
「もういい。帰る」
「まぁまぁまぁ。ほら、ここの答え。全ての物質は魂から出来ている、で正解でしょ?」
「アホか。原子だろ」
「え……。源氏?誰それ?」
目を細めて真剣に問うた私に澤田君は「面倒くせー」と言って溜め息を吐いた。白けた顔を向けられて思わず首を傾げてしまう。
そんな私の反応は傍から見ても滑稽だったんだろう。いつもは無口な千春ちゃんが「ごめん、おかし……っ」と謝りながらクスクスと笑い始めた。真剣に聞いたんだけどなー。おかしな質問をしてしまったらしい。
「それでもめげずに教える姿勢を崩さない澤田君に好感を抱くね」
「そりゃどうも」
「授業にも出るようになったんだって?先生達がさっき職員室で大燥ぎしてたよ」
慶彦が生徒会新聞の最終チェックをしながらニッと白い歯を見せて笑う。
そっか。先生たちが……。きっと我が校きっての天才がやる気を出したと思って喜んでいるんだろう。澤田君と同じクラスの子がしていた噂話曰く、今日の先生達は感慨深い表情で宙を見つめ、目に涙を浮かべていたそうだから。
そこまで人の感情を動かせるなんて恐るべし、澤田君。しかし、澤田君はあまり嬉しくないみたいだ。
「別に。いつまで授業に出るか分かんねぇし」
不貞腐れた顔でそう呟くと、そこから永遠と黙り込んでしまった。
「なるほど。そういうことか」
次の日のお昼休み。昨日の澤田君の態度が気になっていた私は彼の様子を窺いにこっそり3組まで見にいった。
それもどうせ会いに行くなら一緒にお昼ご飯も食べようと思い、ピーコをイメージして作った可愛らしいキャラ弁を2つ手に持って。
まぁ、言ってみれば勉強を教えて貰っているお礼みたいなものも兼ねている。あの勉強量を毎日教えて貰っておいて、マジック1つ教えるだけっていうのも何だか気が引けるし。
何か他にお礼は要らないか聞いたら『飯かなぁ』と言っていたから、お昼ご飯を渡すのは澤田君の中でも結構ありなはず。
手作りって意味で言ったんじゃないと思うけども。しかし、せっかく作ったものを『要らね』なんて言ったら許さんぞ!澤田ー!と思いながら教室に向かったのが3分前の出来事。
教室を覗いて早々、ドアの向こうに見えている光景に背筋がヒュンとする。3組の教室は普段自分が過ごしている教室とそっくりで、ぱっと見た感じ何の変哲もない。
違いと言えば教室でご飯を食べている生徒がうちのクラスよりも多いかな?って程度。しかし、雰囲気が暗い。外は晴天なのに教室の中だけがどんよりとした曇り空。皆、口数が少ないし、表情も硬いし、気まずそう。
しかもその生徒達の視線は一点に集中している。視線の先を辿って見てみれば、教室の隅っこで背中を丸めて机に突っ伏している金髪頭。猛犬注意の看板でも傍らに立っていそうな凶悪オーラだ。肩を叩いたら噛みつかれそうな。
そっか。昨日の澤田君の微妙な反応の理由はこれか。確かにこれじゃ肩身が狭いよね。教室に居るのも嫌がるはずだ。1人、納得したような気分になって『うんうん』と頷く。
「知らなかった。まさか澤田君がクラスメートからイジメられていたなんて……」
「違うつーのっ。勘違いすんな!」
恐ろしいくらいの地獄耳。ポツリと呟いた私の声を拾ったらしい澤田君は、凄まじい勢いで立ち上がり、厳つい顔をこちらに向けてきた。
途端にラメを辺りにばら撒いたようなキラキラのエフェクトが私の脳内に掛かる。うん。今日も顔が良い。状況を忘れてついつい見惚れてしまうくらいに。
廊下を歩いていたギャルの先輩達も「えー、あの子カッコ良くない?」と、話しながら後ろを通り過ぎていった。
しかし、澤田君は不機嫌。本当のことを言われて恥ずかしかったのか、私を成敗する勢いでイスを倒し、廊下に飛び出てくる。
「菜々、お前……」
「はい。私が来たからにはもう大丈夫ですよ。澤田君」
「あ?」
「ちょっとあなた達、いくら澤田君が最低最悪なバチクソヤンキーだからって!クラス全員で仲間外れにするなんて酷いじゃないですか!」
傍に寄ってきた澤田君を背中に隠し、怒りをむき出しにしながら3組の生徒の前に出る。クラスメート達はポカーンとした顔で惚けているが許さない。そう息巻く私の頭を澤田君がチョップする。
「だから違うって言ってるだろ!」
「何が違うんです?集団無視をされて落ち込んでたんでしょう?」
「落ち込んでねぇし、されてねぇって」
殴った私の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわしながら、澤田君はイジメられている話を必死に否定する。
教室に入ろうとしていた私の体を廊下に押し戻して「どうどうどう」と、馬でも落ち着かせるように背中まで叩いて。
「お前はホント優しいのかアホなのか」
「甘いですよ。澤田君。ここはキッチリ怒らないと」
「アホか。怒ったら余計にビビらせちまうだろ」
「はい……?」
「こいつらはただ、俺の機嫌が悪いと思って気を使ってくれてただけし」
「ん?澤田君の怒りが静まるのを皆で見守ってたってことですか?」
「そうだよ。さっき授業中に襲撃を食らってイラついてたから」
すっと怒りを消す私に呆れた顔を向けてくる澤田君。確かに不良達が澤田君を狙って押し寄せてくるって噂はチラホラと聞いたことがある。
前も上級生の不良達が授業中に喧嘩を売りに来たとかで問題になっていたし。それにまぁ、凶暴凶悪と名高い澤田君が傍に居ると委縮してしまう気持ちも分かる。怒らせてはいけないって思うと思う。
しかし、果たして本当にそうなのか?と疑問。だって実際の澤田君は割と面倒身が良いし、心が広いし、優しい。ふざけ倒しても殴ってこないし、本当は意外と温厚じゃないかと思えてきているくらいだ。ピーコだって懐いているし。
それをクラス全体が一致団結するほど、そこまで怖がる?ただの理由付けで本当はいじめを隠しているだけなんじゃ……と疑う気持ち。