松之木学園♥生徒会執行部


 「確かにココはいい場所ですね」

 「あぁ。だから早くどっか行けよ」

 「そうですね。一緒にどこかと言う名の生徒会室に行きましょう」

 「行くかよ。一人で行け」

 「ところで澤田君」

 「あん?」

 「おでこに光が当たってレーザー銃で狙われている人みたいになってます」


 穴の開いたカーテンから光が差し込んで澤田君のおでこの真ん中を照らしている。それを思わず素直に教えてしまった私を澤田君は「うぜぇ」とゴミでも見るような目で見た。メチャクチャ嫌そうな顔を浮かべちゃって。自分の感情を臆することなく出す人だ。


 「消えろ」

 「だから幽霊じゃなくて生身の人間だって何度も言ってるじゃないですか」

 「そういう意味じゃねぇ」

 「マジックでも無理ですよ?鳩を出すことくらいしか出来ません」

 「鳩は出せるのかよ」

 「はい。正月の集まりのときの出し物で親戚のおじちゃんに教えて貰いました」


 こうやってこう!と鳩を出すマジックの物真似をする私に、澤田君は僅わずかに興味を持った表情を見せる。

 うん。用務員のオジサマから教えて貰った澤田君の変わり種好きは本当らしい。珍しい雲とか、山から遊びにきた動物とか、偶然の産物で出来た人工物っぽいものとか、日常と違うものを見つけてはパシャパシャ写メを撮っているんだとか。マジックだって結構、好きな部類なのだろう。悪くない反応だ。


 「どうやって出すんだよ」

 「付いてきてくれたら教えます」

 「またそれか。しつこいなー」

 「コンロにこびり付いた焦げよりもね」

 「ドヤるな。反省しろ」


 腰に手を当て得意げに顎を上げた私に澤田君は呆れたような表情を浮かべてくる。あしらわれている感が半端ない。しかし、結構攻めたことを言いまくっているわりには空気が穏やか。まだキレられていない。


 「んー」

 「渋りますね……」

 「そりゃそうだろ」

 「何がそんなに嫌なんですか?」

 「言われた通りにやるのが嫌。命令されたくねーの」


 だからもう放っておいてくれ、と澤田君は至極面倒くさそうに眉を顰めて私に言う。迷っているくせにだ。メチャクチャ頑固。仕方ない。こうなれば奥の手を使おう。


 「わかりました。じゃあ、生徒会に誘うのは一旦ヤメにします」

 「一旦かよ」

 「いやぁね、実はコッチの話の方がメインなんですよ」

 「まだあんの?」

 「はい。澤田君の頭の良さを見込んでお願いしたいことがあるんです」


 そう言って私は制服のポケットから一枚の紙を取り出した。規則正しく問題の並んだ社会のテスト用紙。先日受けた中間テストのやつだ。赤ペンで書かれた点数は19点。今の私の実力である。


 「……やば。19点って」

 「でしょ。やばいんですよ。本当」


 ドン引きする澤田君にヘラヘラと締まりのない顔を向ける。

 何を隠そうこのヤンキー、見た目とは違って頭の作りはメチャクチャ優秀。テストをさせれば全教科95点以上。元々勉強は嫌いじゃないみたいで我が校で1番と言えるほど頭がいい。

 ついでに言うと私はいかにも勉強できそうな見た目をしているが、実際のところはメチャクチャ頭が悪い。あまりの悪さに小学生の弟が憐れんで『ギャップ萌えだね。姉ちゃん』といつもフォローを入れてくれる。


 「何だよ、活気時代って。ここの答えは石器時代だろ」

 「はは……。何となくニュアンスで」

 「こっちはセクハラの戦い?関ヶ原の戦いか?」

 「はい。恐らく」

 「フランシスコをフラスコと間違えるのは、まだわかる。でもさすがにエビウルはないだろ。ザビエルだから。こいつエビを売り歩いたりしてねぇから」

 「はぁ…」


 ボロボロの私のテスト内容にビシバシとツッコミを入れていく澤田君。クスクスと肩を震わせて何だか予想していた以上にウケている。ラッキーなのかショックなのか自分でもわからない。


 「ウケるわー。ここまで酷い答えを書くやつなんて初めて見た」

 「しかもこれで進学希望だったりしますからね」

 「それは厳しい。つか無理だろ」

 「だからこそ、澤田君に頼みたくて」


 テッテレーと効果音を鳴らす勢いで奥のソファに座った澤田君に詰め寄る。少しばかり強引だけど、ここはもう押せ押せ戦法だ。とにかく頷かせたい。


 「何?勉強でも教えろってか?」

 「その通り!」


 祈るように指を組み、おさげ髪を振り回し、キラキラと瞳を輝かせながら、澤田君にお願い攻撃を放つ。

 ふふふ、いつもこれで可愛い弟に畳んだ自分の洗濯物を片付けて貰ったり、食べ終わった後の食器を片付けて貰ったりしてきた。あのおねだり上手な弟がいつも負けて言う通りにするくらいだ。いくらバチクソヤンキーな澤田君といえどもこの攻撃には勝てるまい。


 「まぁ……。他の珍回答も見てみたいしな。暇なときなら考えてやらなくもない」

 「本当ですか⁉」

 「あぁ」

 「出来れば授業に出て、その内容をその日のうちに教えて貰いたいんですけど」

 「なんで?」

 「じゃなきゃ忘れちゃうんで。頭の容量も追い付きませんし」


 悪くない反応を返してきた澤田君に「澤田君が思っているより私はポンコツです」と大真面目な顔で情けないお願いを始める。


 ついでに【澤田慧悟の更生】のミッションもこなしてしまおうって魂胆。毎日一緒に勉強って何だか面倒くさい流れになりつつあるけど、この際ここから引っ張り出せれば理由は何だって良い。出さないことには生徒会室にも連れて行けないもん。


 「報酬は鳩の出し方でどうです?」

 「そこでさっきのネタを引っ張ってくるのか」

 「ふふん。気になるでしょう」

 「まぁ、気にはなっているな」

 「では教えますから鳩を休ませている生徒会室まで来てください」


 ずいっと更に一歩、身を乗り出した私に澤田君は頭を抱えて溜め息を1つ。面倒くさいと思ってそう。しかし、好奇心には勝てなかったんだろう。


 澤田君は「他の答案も見たいから過去のテストを全部持ってこい」と、私欲と親切心を交ぜながら、私の顔を見てニンマリと笑った。

 「やぁ、来てくれて嬉しいよ。澤田君」


 次の日。慣れ親しんだ生徒会室の長机の前。余所行きの顔を浮かべた理央が、生徒会室にやって来た澤田君に愛想笑いを向ける。組んだ指の上に顎を乗せて穏やかに、まるで孫を見守るお爺さんのようだ。出迎えられた澤田君も悪い気はしないらしく、顔に緩い笑みを描いている。


 「良かったら、そこのイスに座って」

 「そうですよ。僕たちはこちらで作業をするので。遠慮なく」


 鈴花と雄大の眼鏡コンビも、優しく笑って澤田君にイスへ座るように勧める。小春もいそいそとお茶の用意なんか始めてご機嫌だ。私も私で胡散臭いくらい機嫌良くニッコリと微笑んだ。全部が全部、打ち合わせ通り。しかし。


 「あ、澤田君だ~。やほー」

 「颯……」

 「ここに居るってことは生徒会のメンバーに入ってくれる気になったんだね~」

 「あ、おい」

 「良かった。これで校長との約束も達成出来るね」


 颯が生徒会室に入ってきた途端、空気が変わった。理央が溜息を吐き、鈴花の動きが止まり、雄大の眼鏡がズレ、小春の顔が強張る。私の時も止まってしまった。春から冬。快晴から嵐。さっきまで穏やかだった澤田君の表情がみるみる険しいものに変わっていく。


 「何だよ、校長との約束って……」

 「えー?澤田君が生徒会に入ったら恋愛禁止の校則を廃止にするって約束だけど?」

 「はぁ?それが理由で俺をココへ呼び出したのか?」

 「だってそうして欲しいって校長が涙ながらに頼むんだもん」

 「ほー。校長がなぁ……」


 凍り付いた部屋の雰囲気を見ることなく、颯は澤田君に余計なことをバンバン言う。反逆心の塊で人の言う通りに動くのが大嫌いな澤田君に向かって裏事情をペラペラと。澤田君の顔がますます鬼神のように歪んでいく。

 あぁ……。澤田君の神経を逆撫でするようなことばかり言っちゃって。せっかくココまで連れて来たのにまた振り出しだ。勉強を教えて貰いつつ、じわじわと仲良くなって、いつの間にか生徒会入りして貰う予定が全てパー。無邪気な悪魔によって早くも計画がぶち壊されてしまった。


 メンバー入りの話は仲良くなるまで待とうって言ったじゃない。おまけに校長先生の話まで出しちゃって。『わかったぁ~』なんて元気のいい返事をしておいて、全く話を聞いてなかったなー、この悪魔。


 「あちゃー」


 一足遅れて生徒会室に入ってきた慶彦も頬を掻いて苦笑い。見兼ねた小春が人差し指を唇に当てて『言っちゃダメ』と必死にジェスチャーを送っているが颯は全く気づかない。



 「別に良くない?選挙もしないで入れるなんて異例中の異例だし、お得だよ?」

 「黙れ。誰がそんな面倒くせぇもんに入るかよ」

 「えー。なんで?入ってくれないと僕達、困るんだけど~」

 「知らねーし。勝手に困ってろ」

 「そう言わずさぁ、入ってよ。じゃなきゃ行事までしょぼくなっちゃうし」


 天使の仮面を被った悪魔が言ってはいけない発言を鬼に放ちまくる。危機を感じた雄大から助けて欲しいって顔をされたが、首を横に振って苦笑い。無茶を言うな。この状況を乗り超えるスキルは生憎持ち合わせていない。それこそ理央くらいしか。


 「どういう事だよ」

 「あ、うん。単刀直入に言うとね、僕達は君に生徒会のメンバーに入って欲しいと思ってる」

 「校長に頼まれたから?」

 「そうじゃない。勿論それもあるけど、1番の理由は菜々の頭の悪さを見兼ねたからだよ」

 「……菜々の?」

 「そう。校長にも次の期末テストで80点以上を取れるようにしろ、じゃなきゃ学校の行事に力を入れてやらないぞって脅されててさ」


 存在しない話をさも事実のように、理央は困ったような笑顔で澤田君に話す。いきなり理由として抜擢されてしまった私はそりゃビックリ。『何ですとー⁉』と驚きいっぱいの顔で理央と澤田君を二度見してしまう。そんな事実、あり得ない。100パーセント噓だ。そもそも中間テストの結果がオール赤点だった私が80点以上なんて無理。不可能。

 この腹黒男め。さては私を利用してこの危機から逃げるつもりだな……。澤田君の『それは厳しい』って納得している顔が、私の導き出した答えが正解だと告げている。しかも何が嫌かって、その案を本当の話として通してしまいそうだから。校長も澤田君を更正出来れば取り敢えず何でもいいとか言って頷きそうだし。


 「だったら別に生徒会に入らなくても。勉強は教えられるだろ」

 「いや。菜々は週のほとんどをココで過ごしているから」

 「それと俺の生徒会入りに何の関係があるんだ?」

 「大ありだよ。生徒会室に出入り出来るのは生徒会メンバーだけって決まってるし」

 「知るか。特例を出せ」

 「それは無理だよ。学校の決まりだから」

 「変えりゃいいだろ。何のための会長職だ」


 手を変え品を変え理央は澤田君の追及を上手く誤魔化していく。だが、澤田君は面倒くさそうに理央の提案を跳ね除ける。絶対にそうなるだろうとは思っていたけど、やっぱりか。


 「とにかく絶対に入らねぇぞ、俺は」

 「そこを何とか」

 「ぜってぇ嫌」


 必死に説得をする理央に澤田君は心の底から嫌そうな顔を浮かべる。何が何でもお断りだ、って。うん。まぁ、そうなるよね。分かってた。あれだけ来ること自体、嫌がっていたし。どれだけ理由をつけようが説得は厳しいと思う。


 一応、澤田君には【補佐】の役をやって貰うことが既に決まっている。これはその名の通り他のメンバーの手伝いをしたりする役で、校長を含め生徒会のメンバー全員で事前に話し合った結果そうなった。

 他の役は今のところ空いてないしね。立候補をしてノリノリで選ばれた私達とは違って澤田君は殆ど強制みたいなもの。あまり重い役を任せても嫌がって来なくなるだろうってことで。

 正直に言えば補佐が単体でする仕事はあまり無い。とはいえ生徒会全体としての仕事は山ほどある。だからこそ平和的に入って貰いたい。でないと全体が上手くいかなくなる。


 「飽くまでも【補佐】だし。特に難しいことをやって貰うこともあまりないから」

 「それでも嫌なもんは嫌だ」


 もういい。だったら帰る。と澤田君は理央を睨み、生徒会室から出ていこうとする。だから忍ばしていた鳩のピーコをノートから取り出したように見せかけて部屋に放った。頭の良いピーコは小さく羽を羽ばたかせ、ドアの前に立っていた澤田君の肩に止まる。





 「おやおや。ココに来た本来の目的を忘れていないかね、澤田君」

 「忘れてねぇ。お前のテストの珍回答を見る、だろ」

 「それもだけど!マジックの種明かしを知るのも重要なことだから!」


 出来れば勉強なんかしたくない。それが私、松戸菜々の本音だ。だからこそ食い気味に澤田君に言った。そう。これは澤田君が知りたがっていたマジック。面倒くさがりで反逆心の強い澤田君が、ついつい出会ったばかりの女の願いを聞き入れてしまうくらい、タネや仕掛けを知りたがっていたマジックだ。

 ポケットからそっとスマホを取り出した彼の様子を見るからに、興味を引き付けたのは言うまでもない。何ならこのままマジックに夢中になって勉強のことは全て忘れてくれればいいのにと思う。


 「そこも覚えてるって、ちゃんと」

 「そうですか」

 「しかし、すげー。本当に出せるのな」

 「ふふん。鳩のピーコです。可愛いでしょう」

 「あぁ」

 「可愛いでしょう!」

 「可愛いよ!」


 語尾を荒げて『可愛いと言え』と圧力をかける私に澤田君は素直に従った。絶世の塩顔美男子から容姿を褒められたピーコは嬉しそうに首を伸ばして澄んだ瞳を輝かせる。澤田君の方だって、ピロリンなんて音を立てて写真を撮っているんだから既にピーコの虜。よし。このネタは使える。


 「いいですか、澤田君。このマジックで重要なのは、まず鳩と仲良くなることです」

 「ふーん。鳩とな……」

 「仲良くなるには毎日、愛情を込めて話し掛けながら餌をあげることが大事なんですよ」

 「へぇー。話しながら餌をかぁ」

 「そう。後は言わなくても分かりますね?」


 くいっと眼鏡をずり上げて大真面目な顔で澤田君にもっともらしいことを言う。そんな私にピーコが同調するようにクルックーと鳴く。さすがピーコ。空気を読むのが上手い。


 「だから毎日ココへ来いってか」

 「そうです。そのついでに私へ勉強も教えて貰えれば」

 「だったら(仮)メンバーってことにする?」

 「お試しで生徒会に入るってことか?」

 「うん。それなら生徒会室にも入れるし、ありだよね?」


 説得にかかる私の横から理央が書類を差し出し澤田君にふんわりと笑い掛ける。「はい」と澤田君にペンを渡して「ここに名前を書いてね」と軽い感じに言っているけど、それを書いたら最後。生徒会のメンバーとして正式に採用され、任期を終えるまで辞められない。

 (仮)なんて口だけ。言ってみれば気持ちが追いつくまで待っていてあげるの(仮)だ。どうにかこうにか丸め込んで強制労働をさせる気、満々なはず。

 ほんと優しい顔をして中身は鬼畜だ。それにしても散々反対していたわりには皆、メンバーとして入って貰おうと必死になっているんだから、あの校長もなかなか見る目がある。引き受けたからには全力で、それが我ら松之木生徒会執行部メンバーの長所なのかも知れない。
  


 「おい、菜々。いつまで俺を待たせてんだ」


 土日を挟んで月曜日。授業が終わって帰宅する生徒で溢れ返る教室の隅っこ。澤田君が私の姿を見つけて不機嫌そうにつかつかと歩いてくる。


 待たしたと言ってもせいぜい5分程度のはず。しかし、澤田君はえらくご立腹だ。もしかして俺様は待たされるのが嫌いなのか……?と疑問が浮かび上がる中、がっつりと腕を掴まれる。


 別のクラスの、しかも大勢の生徒の前だというのに教室の中まで入ってきて大胆な。戸惑って思わず「ひぃっ」と声を上げてしまったことは許して頂きたい。


 「菜々ちゃん……!」

 「あ、ごめん。平気、平気」


 クラスメートがギョッとした顔で心配してきたが、片手を上げて宥める。それでも不安そうにされてしまった。だが、ビビられている側の澤田君は平然とした顔だ。


 この男、自分が注目度1000パーセントの学校1目立つヤンキーだって自覚がまるでない。もれなくクラスメート全員の視線を独占しているのにだ。


 当たり前のように私を教室から連れて行こうとなんかして。ごく普通の一生徒として振舞っても周りからすれば違和感がありありなんですよ。


 「先生、呼ぼうかっ⁉」

 「いや、呼ばなくていいから」

 「でもっ!」

 「大丈夫、大丈夫」


 今にも職員室に走り出しそうなクラスメートに手を振り、澤田君と生徒会室に向かう。周りの生徒が何事かとジロジロ見てきたけど、そこはもう華麗にスルーだ。


 「ちゃんと授業に出たんですか?」

 「まぁな」

 「1時間目から6時間目まで?」

 「出たよ。ホームルームはサボったけど」

 「あぁ、それで早かったんですね」


 生徒会室に向かって歩きながら廊下で澤田君と話す。

 なるほど。だから待ち時間が長く感じたのか。納得。それにしてもこのヤンキー、頼んだ通り授業にはちゃんと出てくれたらしい。


 つい数日前まで皆勤賞を取る勢いでサボっていたくせに律儀な。見た目とは違って意外と真面目なのかな?なんてったって全教科95点以上を取るような頭脳を持っているほどだし。


 「お前はちゃんと真面目に授業を受けたんだろうな?」

 「当たり前じゃないですか」

 「本当か?授業で使ったノートを出してみろ」


 疑うように言われて内心ドキリ。躊躇しながらもおずおずと鞄からノートを取り出す。


 開いたノートにはびっしりと書かれた丁寧な文字……ではなく、ピーコの愛らしいイラストが描かれている。ウインクピーコ、飛びピーコ、お昼寝ピーコ、我ながら良い出来だ。模写とまではいかないが、上手く特徴を捉えて描かれている。



 「どうです?上手いでしょう?」

 「アホか!」


 得意げに微笑んだ私に澤田君は勢い良くビシッとツッコミを入れてきた。廊下の壁にノートを叩きつけて心の底から呆れたような表情だ。疲れたとでも言いたげに溜め息まで吐かれて思わず苦笑い。


 うん。私が悪いのは分かってるよ。でも、勉強は嫌いなんだもん。



 「やる気あんのかテメェ」

 「ありません!」

 「ありませんじゃねぇっ。出せ‼」


 キッパリと言い放った私に鋭い眼光を放ち、澤田君は「せめてこれくらいはやれ」と言って鞄の中から自分のノートを取り出した。渡されて見てみれば、色まで分けて綺麗に分かりやすく纏められている。参考書みたいに。


 「……凄いですね。誰から巻き上げたんですか?」

 「盗るか!自分で書いたに決まってるだろ」

 「えぇっ⁉」


 その見た目で?この綺麗なノートを?ちまちま色まで変えて分かりやすく?


 そんなバカな。あなた、泣く子もぶん殴る狂暴な不良じゃなかったんですか?と目をカッ開きながら驚く。人は見掛けによらない、とはよく聞くけども、その言葉が本物だったと初めて知る。


 「お前も明日からこうやって書け。話はそれからだ」

 「えー。こんな参考書みたいに書けないッスよ」

 「このくらい普通だ、普通。つか授業中にペットの絵を描いてる方がおかしいだろ」


 明らかに授業中にガムとか噛んで昼寝をしてそうな見た目をして、澤田君は私にお説教をする。信じられない。教師も匙を投げるようなバチクソヤンキーなのに。


 「ちなみに一応言っておきますが、ピーコはペットじゃなくて私の相棒ですからね」


 場所は変わり生徒会室。ピーコに餌を与えていた澤田君に重要な事実を告げる。ピーコと私の間には主従関係なんてないもん。人生を共に羽ばたく相棒だ。


 「何も自分から鳥頭だと言わなくてもいいだろ」

 「ピーコは頭が良いですからね。自ずと私も頭が良いってことになりますね」

 「違う。アホって言ってんだよ」

 「失礼な!今、澤田君は全鳥を敵に回しました!」


 透かさずツッコんでくる澤田君にビシッと指を指して全鳥の気持ちを代弁する。私をアホ呼ばわりするのはいいけど、ピーコ達をバカにされるのは許せない。


 「見ておけ、澤田。明日から貴様は行く先々で鳥の糞と羽攻撃に合うだろう」

 「不吉な予言をするな!」


 ピーコを腕に乗せ、腹話術を楽しむ私に澤田君は物凄く嫌そうな顔をする。ピーコがタイミング良く「クルックー」と鳴き、羽をバッサバサと揺らしてくれたのにも関わらずだ。どうやら彼はあまり冗談が通じないタイプらしい。