「刀利……? お前、すんげえ名字してんな」
お前の漢字、凶暴すぎでしょ、と零して口元に手をやって上品に笑うのは影で密かに生きるわたしとは真逆の人物。
そんな人に突然話しかけられたわたしは体中を強張らせた。
……この人が話しかけて来るまで気配さえ感じなかった。そう思い、ゾッと鳥肌が立つ。
「菅生、さん……? なんで、」
そんな人物が、わたしみたいな地味女子にわざわざ当たり障りのない話を振ってくる理由。
そして、どうしてこんな所にいるのか。
それを知りたくてわたしはグイッと顔を上げた。
「? なんだ」
「どうしてわたしなんかに……その、話しかけるんですか。それにどうして、あなたのような方がこんな所に?」
閑散とした放課後の教室。
ここにはわたしと菅生さん以外誰1人としていない。
ついさっきまでは、確かにわたし1人だった空間。
それが今はなぜか、教室の廊下側の窓に背を預けてこちらを覗う青年がいる。
「は、何。おれはお前に話しかけちゃいけないの?」
「…っや、そういうわけじゃ…ないんですが」
「ならいいじゃん。……それに、別におれが誰に話しかけようと、どこにいようとそんなもんどーだっていいでしょ」