これは、在りし日の物語──



「ちょっと!こんなに大量の魔物が出るだなんて聞いてないわよっ‼」
 そう叫ぶのは新米冒険者、アイリス・ローベルであった。
「仕方ないがじゃないか!君はなぜあの笛を吹いたんだ!自殺行為だろう‼」
今にも泣きだしそうな顔で全力疾走するのは、中級精霊使いのセリアナ・シュバリエ。
「知らないわよ!だって冒険者ギルドにいたモヒカンのお兄さんが『お、かわいい子ちゃぁ~ん。お兄さんがいいコト教えてあげるよ』って言って、この魔物呼びの笛を吹けって言ったんだもん‼」
「大バカ者!君の頭の構造は一体どうなっているんだ!」
「セリアナァ......。もう、疲れたよぉ...」
「待て!寝るな!!」そう言うセリアナを片目に、アイリスは気を失った。



「では、第25回『ローズロード』の反省会を開始します。」
「あのさぁ...。いい加減もう『ローズロード』っつう名前はやめにしないか?正直言って君のネーミングセンスはどうかしていると思う」
「まあこれは仮ってことで」苦笑いをしながら目は完全に死んでいるアイリスだった。

 アイリス達は先日最低のFランクからEランクに上がったばかりのパーティ。Eランクに上がった勢いで彼女たちにはまだ早いレベルの、『近くの畑を荒らす魔物を駆除してほしい』という依頼を受けた。
 そこでアイリスがやらかし、二人して魔物に倒されそうになっているところを近隣住民が拾ってくれ、今はなけなしの金で安い宿屋に泊まっている。

「それでは、今回の私たちの敗因は何だと思いますか?」
「......君が笛を吹いた以外にないだろう」
「ヘへ...その節はどうも......」
「どうもじゃないだろう‼」今にも自分に殴り掛かりそうなセリアナを必死に止めるアイリス。
「まあ......。あたしが精霊使いとしての本領を発揮できなかったっつうのも問題だな」

 この世界には魔法というものが存在し、それぞれの魔法には火・水・土・木・風・氷・雷・光・闇の9つの属性がついている。そして精霊というのは各々の属性を代表する一つの神聖な種族である。彼らと契約を結び、その力を借りて戦うのが“精霊使い”と呼ばれる者達だ。
 ちなみに、この世界の職業には強さによる階級が分かれていて、「初級」「中級」「上級」「神級」に分けられる。
 
「セリアナ、あんた精霊に嫌われてるんじゃないの...?」
「ばっ......‼そんなわけがなかろう!そういうお前はどうなんだ」
「うっ......。痛いところを突いてくるわね...」言いながらセリアナの脇腹をつつく。
「いっだだたたぁぁ‼何をするっ!」苦しそうに顔をゆがめるセリアナ。
「ふんっ!でも確かに、私も魔法を一度も放っていなかったわね...」

 アイリスは、この世界で最も普遍的な職業“魔法使い”である。
魔法使いは魔力という力を使い、属性に基づいた魔法を放つ。ただし、人によって得意とするものが大きく変わり、例えばアイリスは水・風属性を得意とする。

「私たちのパーティには何が足りないんだろう」
「前衛だな」

 そう、『ローズロード(仮)』には前衛がいないのだ。アイリスは一応攻撃魔法も心得ているが、彼女は守護魔法や結界魔法の方を得意とする。セリアナも、攻撃力の高い精霊と契約してはいるが、どうにも精霊たちに嫌われているのでなかなか力を発揮できていない。

 ――このままでは解散の危機!
 珍しく二人の意見がきれいに合致した瞬間だった。