インターフォンの音が鳴った。
誰が来たかと、杏菜は、ドキドキしながら
玄関のドアを開けた。
嗅いだことのない匂い。洗濯柔軟剤の香り。
ベリー系の匂いだ。
クスッと笑った声がする。
寝巻きのままだったことを思い出した。
開けたドアをまた閉めた。
「あ、すいません。
突然の訪問失礼しました。
区役所の委託業務により
一ノ瀬湊人さんの依頼で参りました。
ガイドヘルパーの堀込 智と言います。
笹山 杏菜さんでお間違い無いですか?」
ドア越しにペラペラと話す。
初めて会うのにすごいおしゃべりな人だな
と思った。
「今、着替えてきますから
ちょっと待っててください!!」
「あ、はい。ここで待ってますね。」
杏菜は、太ももがかなり見えまくりの
ホットパンツにダボっとメンズTシャツで
ノーブラでエロ全開じゃないかと
自分の格好を思い出した。
急いで、クローゼットから
服を取り出して、ダメージジーンズと
ボーダーセーターに着替えた。
乱雑に部屋が散らかる。
見えないからどうなっているかなんて
わからない。
「お、お待たせしました。」
「あ、着替えて来たんですね。
思ったより身の回りのことは
できてる感じですか。
すごいですね。」
「…え、いや、そんなことはないです。」
堀込は、腕の隙間から中の様子を
伺うとかなり部屋が乱雑しているのが
わかった。
「ほー表面上はってところでしょうか。」
「え?」
「はい。名刺。
私、こういうものです。
一ノ瀬さんから依頼されて、
こちらに伺いました。
ガイドヘルパーとまぁ、サービスで
ホームヘルパーも兼務しています。
部屋の中に上がらせてもらいますね。」
堀込は杏菜の許可なしに
ズンズン中へ入っていく。
テーブルの上には、
カップ麺、スナック菓子、
ペットボトルや空き缶。
床には着替えたであろう服の山。
DVDの山、点字で書かれた本が
大量に重なっていた。
どこに捨てたかったのかティッシュの
カスまで落ちていたようだ。
堀込は、事細かに何がどこに落ちているか
姑のようにちくいち説明した。
「えー、もう。
そんな細かく
言わないでくださいよ!!
目が見えないんだから、
仕方ないでしょう。
湊人より怖いし、うるさい人だなぁ。」
「…何か言いました??」
「え、いや、はい。
何も言ってませんよ。」
「一ノ瀬さんは
これからビックプロジェクトが
始まるそうで、
前よりも手厚いサポートが
できないからと私に依頼しています。
ある意味、
一ノ瀬さんの代わりが私になるので、
よろしくお願いしますね。 杏菜さん。」
「え?ビックプロジェクト?
何それ。」
「知りません。
教えてくれませんでした。
大学で研究してるって話だけ
聞かされてるので、深くまでは。
はいはい、そういうのいいですから、
お掃除しますよ。
ほらほら動いて。
お手伝いって言いましたけど、
自立もしてほしいですから
ゆっくりやっていきましょうね。」
「えーーー、掃除。
見えないのに、怪我するよぉ。
面倒臭いぃ。」
堀込は、次々と部屋を片付け始めた。
「はいはい、喋ってないで、
手を動かしてくださいね。」
突然、始まったガイドヘルパーによる
サポートというよりはしごきだった。
杏菜が日中グダグダ過ごしていたことが
見透かされていたようで、
やる気を引き出しますと
目が燃えていた。
テキパキと動いたら、
運動にもなったようで、汗をかいた。
ぼんやり過ごすより気分転換になって
いいなと思った。
これで湊人に褒められる…。
杏菜は重要なことを思い出した。
「あ、あの!!
堀込さんでしたっけ。
湊人っていうか、一ノ瀬さんは、
ものすごく潔癖症で
物の置き場所とか、全部住所があるって
言われたんですけど、片付けてしまって
大丈夫でした?」
「あーー、そのことでしたら、
依頼メールとともに物の住所が書かれた
部屋の地図をもらってましたよ。
杏菜さんに見せたいところですが、
見えないですもんね。」
堀込は、バックの中から
1枚のA4用紙に印字された
部屋の物の住所が事細かに
書かれていた。
堀込は、感心するくらい丁寧に
書かれていて助かっていた。
「こういうマニュアル?
みたいのあると助かりますね。
場所が一目瞭然で、さすがですね。
将来の一ノ瀬さんが楽しみです。」
「見たかった。
すごい気になる。」
「点字表示できればいいんでしょうけどね。
でも杏菜さんは手をつけない方が
いいかもしれないですね。
部屋が散らかりそうです。」
「うん、そうですね。
いつも言われてることです。
掃除とか整頓には手を出すなって。
私、物の置き場所忘れるタイプなんで。
見えないから尚更ね。」
「まぁまぁ、片付けが終わったら、
一緒に来て欲しいところがあるので
外出の準備してもらえますか?」
「外出?
出かけていいの?
何日ぶりだろう。
湊人がいつも疲れていて、休みの日も
なかなか連れてってくれなかったから
まだ1人で外出る勇気なかったの。
堀込さんにサポートしてもらえるなら
行けるわ。」
いつの間にか堀込の腕を
しがみついていた。
会ってまもないのに
パーソナルスペースが
近すぎる。
「杏菜さん、片付け終わってから
ですからね。」
仕事上での付き合いってことは
わかっていたが、密着度合いが半端ない。
脳内で落ち着けと言い聞かせる堀込だ。
「はーい。
わかってますよ。」
ある程度掃除を終えて、
お気に入りの小さな黒のショルダー
バックを持って、キャップ帽をかぶった。
「持ち物は大丈夫ですか?」
「あ、白杖持って行こう。
湊人が買ってくれたんだった。」
杏菜は、
玄関の戸棚から長い白い杖を取り出した。
「そうですね。
歩く練習しないと。」
堀込は、先に靴を履くと、
さりげなく、スニーカーを
杏菜のそばに寄せた。
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ。どういたしまして。
ほら、足元、段差に気をつけて
行きますよ。」
堀込はさっと手を差し出して、
誘導した。
杏菜は堀込の手を借りて、
玄関の外に出た。
開けた瞬間、杏菜の周りの
空気が一気に変わった。
すがすがしい気持ちになった。
風が少し強かった。
誰が来たかと、杏菜は、ドキドキしながら
玄関のドアを開けた。
嗅いだことのない匂い。洗濯柔軟剤の香り。
ベリー系の匂いだ。
クスッと笑った声がする。
寝巻きのままだったことを思い出した。
開けたドアをまた閉めた。
「あ、すいません。
突然の訪問失礼しました。
区役所の委託業務により
一ノ瀬湊人さんの依頼で参りました。
ガイドヘルパーの堀込 智と言います。
笹山 杏菜さんでお間違い無いですか?」
ドア越しにペラペラと話す。
初めて会うのにすごいおしゃべりな人だな
と思った。
「今、着替えてきますから
ちょっと待っててください!!」
「あ、はい。ここで待ってますね。」
杏菜は、太ももがかなり見えまくりの
ホットパンツにダボっとメンズTシャツで
ノーブラでエロ全開じゃないかと
自分の格好を思い出した。
急いで、クローゼットから
服を取り出して、ダメージジーンズと
ボーダーセーターに着替えた。
乱雑に部屋が散らかる。
見えないからどうなっているかなんて
わからない。
「お、お待たせしました。」
「あ、着替えて来たんですね。
思ったより身の回りのことは
できてる感じですか。
すごいですね。」
「…え、いや、そんなことはないです。」
堀込は、腕の隙間から中の様子を
伺うとかなり部屋が乱雑しているのが
わかった。
「ほー表面上はってところでしょうか。」
「え?」
「はい。名刺。
私、こういうものです。
一ノ瀬さんから依頼されて、
こちらに伺いました。
ガイドヘルパーとまぁ、サービスで
ホームヘルパーも兼務しています。
部屋の中に上がらせてもらいますね。」
堀込は杏菜の許可なしに
ズンズン中へ入っていく。
テーブルの上には、
カップ麺、スナック菓子、
ペットボトルや空き缶。
床には着替えたであろう服の山。
DVDの山、点字で書かれた本が
大量に重なっていた。
どこに捨てたかったのかティッシュの
カスまで落ちていたようだ。
堀込は、事細かに何がどこに落ちているか
姑のようにちくいち説明した。
「えー、もう。
そんな細かく
言わないでくださいよ!!
目が見えないんだから、
仕方ないでしょう。
湊人より怖いし、うるさい人だなぁ。」
「…何か言いました??」
「え、いや、はい。
何も言ってませんよ。」
「一ノ瀬さんは
これからビックプロジェクトが
始まるそうで、
前よりも手厚いサポートが
できないからと私に依頼しています。
ある意味、
一ノ瀬さんの代わりが私になるので、
よろしくお願いしますね。 杏菜さん。」
「え?ビックプロジェクト?
何それ。」
「知りません。
教えてくれませんでした。
大学で研究してるって話だけ
聞かされてるので、深くまでは。
はいはい、そういうのいいですから、
お掃除しますよ。
ほらほら動いて。
お手伝いって言いましたけど、
自立もしてほしいですから
ゆっくりやっていきましょうね。」
「えーーー、掃除。
見えないのに、怪我するよぉ。
面倒臭いぃ。」
堀込は、次々と部屋を片付け始めた。
「はいはい、喋ってないで、
手を動かしてくださいね。」
突然、始まったガイドヘルパーによる
サポートというよりはしごきだった。
杏菜が日中グダグダ過ごしていたことが
見透かされていたようで、
やる気を引き出しますと
目が燃えていた。
テキパキと動いたら、
運動にもなったようで、汗をかいた。
ぼんやり過ごすより気分転換になって
いいなと思った。
これで湊人に褒められる…。
杏菜は重要なことを思い出した。
「あ、あの!!
堀込さんでしたっけ。
湊人っていうか、一ノ瀬さんは、
ものすごく潔癖症で
物の置き場所とか、全部住所があるって
言われたんですけど、片付けてしまって
大丈夫でした?」
「あーー、そのことでしたら、
依頼メールとともに物の住所が書かれた
部屋の地図をもらってましたよ。
杏菜さんに見せたいところですが、
見えないですもんね。」
堀込は、バックの中から
1枚のA4用紙に印字された
部屋の物の住所が事細かに
書かれていた。
堀込は、感心するくらい丁寧に
書かれていて助かっていた。
「こういうマニュアル?
みたいのあると助かりますね。
場所が一目瞭然で、さすがですね。
将来の一ノ瀬さんが楽しみです。」
「見たかった。
すごい気になる。」
「点字表示できればいいんでしょうけどね。
でも杏菜さんは手をつけない方が
いいかもしれないですね。
部屋が散らかりそうです。」
「うん、そうですね。
いつも言われてることです。
掃除とか整頓には手を出すなって。
私、物の置き場所忘れるタイプなんで。
見えないから尚更ね。」
「まぁまぁ、片付けが終わったら、
一緒に来て欲しいところがあるので
外出の準備してもらえますか?」
「外出?
出かけていいの?
何日ぶりだろう。
湊人がいつも疲れていて、休みの日も
なかなか連れてってくれなかったから
まだ1人で外出る勇気なかったの。
堀込さんにサポートしてもらえるなら
行けるわ。」
いつの間にか堀込の腕を
しがみついていた。
会ってまもないのに
パーソナルスペースが
近すぎる。
「杏菜さん、片付け終わってから
ですからね。」
仕事上での付き合いってことは
わかっていたが、密着度合いが半端ない。
脳内で落ち着けと言い聞かせる堀込だ。
「はーい。
わかってますよ。」
ある程度掃除を終えて、
お気に入りの小さな黒のショルダー
バックを持って、キャップ帽をかぶった。
「持ち物は大丈夫ですか?」
「あ、白杖持って行こう。
湊人が買ってくれたんだった。」
杏菜は、
玄関の戸棚から長い白い杖を取り出した。
「そうですね。
歩く練習しないと。」
堀込は、先に靴を履くと、
さりげなく、スニーカーを
杏菜のそばに寄せた。
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ。どういたしまして。
ほら、足元、段差に気をつけて
行きますよ。」
堀込はさっと手を差し出して、
誘導した。
杏菜は堀込の手を借りて、
玄関の外に出た。
開けた瞬間、杏菜の周りの
空気が一気に変わった。
すがすがしい気持ちになった。
風が少し強かった。