胸がいっぱいいっぱいになると同時に、強い気持ちが湧き上がってきて、ナイルさんの言葉をさえぎって告白した。
ぎゅうう、と抱きついても、ナイルさんはだまってうごかないまま。
どうして…?とすこし泣きそうになる。
「…俺はヤクザで、リアナちゃんはアイドルだよ?スキャンダルにでもなったら、芸能界にいられなくなっちゃう」
とんとんと、たしなめるように背中をたたかれて、ナイルさんはそんなこと言うひとじゃないのに、と唇を噛んだ。
「どうしてそんなこと言うんですか…っ」
「ライブを見たら、リアナちゃんは人気なんだなーって実感してさ。俺が台無しにしちゃわるいでしょ」
ぜったいちがう、ナイルさんはそんな良識のあるひとじゃない…!
私は顔を上げて、ナイルさんの首に抱きつきながらキスをした。
「ナイルさんの本音を聞かせてよ…っ!」
「…」
サングラスを外しているナイルさんは、私を見つめて目を細める。
それから、目を伏せてふかいキスをした。
「ふぁ、んっ…はぁ…」
「俺の本音、か…リアナに近づく男は皆殺しにしたい。さらってでも、リアナをそばにいさせたい」
ナイルさんはぎゅっと私を抱きしめる。
「――俺がアイドルのリアナを台無しにして、ぜんぶをうばいたい」
キケンな愛の言葉をささやかれて、胸がきゅんとうずいた。
そうだよ、ナイルさんはそういうひと。
ぜったい好きになっちゃいけないような、わるい大人なんだ。
「ダメです、私、アイドル辞めたくありませんから…でもね、ナイルさんの彼女になりたいんです。私のわがまま、かなえてくれませんか?」
じっと目を見つめると、ナイルさんは甘い顔で笑った。
「わかったよ、お姫さま」
そう言って、ナイルさんはやさしく唇をかさねる。
私はなくなった距離をさらに詰めるように、ナイルさんにぎゅうっと抱きついてキスへ応えた。
「リアナー!おーい、どこにいる!」
廊下から聞こえてきたオウキくんの声に目を開けると、腰をなでられる。
キスがどんどんふかくなっていって、私はまた目をつむった。
オウキくんのまえにもどるのは、もうすこしあと。
いまはわるい年上彼氏との、内緒のキスにおぼれていよう。
ピンポーンとインターホンが鳴ったのは、とある冬の夜のことだった。
「ナイルさん?こんな夜中にどうしたんですか…?」
ベッドから抜け出してきた私は、眠たい目をこすりながら、心なしか赤い顔をしているナイルさんを見上げる。
すると。
「リアナ、会いたかった」
ナイルさんはそう言って、ふにゃりと満面の笑顔を浮かべた。
私はきゅんと高鳴った胸を押さえる。
なにこの破壊力抜群の笑顔っ!
「キスしたい、キス」
「え、わっ」
ナイルさんは冷えた指先で私のほおにふれて、ちゅっとキスをしてきた。
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と止まらないキスから私は抜け出して、いつもとちがう匂いから、ナイルさんがこうなった原因を当てる。
「もしかしてナイルさん、酔っぱらってます?」
「ん、オヤジにたくさん飲まされた」
すねた顔をするナイルさんは、どうやら酔っぱらってうちを訪ねてきたようだった。
****
「ねー、リアナ、キスしよ」
「待ってください、いまお水を用意してますから」
「そんなのいーよ、こっち向いて?」
キッチンで酔い覚ましのお水を用意していると、ナイルさんはうしろから抱きついて、ちゅ、ちゅ、と耳にキスをしてくる。
これじゃあ顔に熱が集まるのを止められない…。
「…キスしたら、大人しく待っててくれます?」
「んー?むり、抱く」
「じゃあダメですっ!」
「えー、待って、うそうそ。がまんするからキスしよ?」
もーっ、なにこのナイルさん…!?
いつもよりふにゃふにゃで心臓にわるいのだけど!
加速した鼓動を聞きながらふり向けば、ナイルさんはふにゃりと笑った。
「顔赤い、かわいい。好きだよリアナ、愛してる」
「んっ」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、とキスされる。
それは止まることなくふかく、ふかくへと入ってきて…頭がくらくらしてくると、胸をさわられる感触がした。
「んんっ、待って、ダメです、ナイルさん!まずはお水を飲んで酔いを覚ましてください」
「えー…リアナちゃんってばきびしいです」
です!?
えっ、かわいい!
もう心臓が跳ねてばっかり…!
私はなんとかナイルさんを落ちつかせて、ソファーに移動し、お水を飲ませる。
コップ一杯のお水を一気飲みしたナイルさんは、「はー」と私のほうにたおれてきて、ひざに頭を乗せた。
「パワハラだよねー、パワハラ。酔いつぶれるまで飲ませようなんてさ~。とちゅうで抜け出してきたけど」
「ふだんはあんまりお酒飲まないんですか?」
「んー、リアナのボディーガードがあるから」
ナイルさんは目をつむって答える。
そっか、ナイルさんもプライベートけずられてるんだよね…。
「酔っぱらったナイルさん、定期的に見たいです。いっぱい甘えてきてかわいいから」
ナイルさんの髪をなでながらそう言うと、ナイルさんはぱちっと目を開けて私を見つめた。
「かわいい?」
「はい」
「ふーん…俺がかわいく見えるんだ」
目を細めるナイルさんを見て、あれ、といやな予感がする。
ナイルさんは体を起こすと、噛みつくようにキスをしてきた。
「んんっ」
「警戒心がなってませんね、リアナちゃん?オオカミのまえで油断なんてしたら、ぺろりといただいちゃうよ」
「な、ナイルさっ」
妖しく笑って、ナイルさんは熱い体温をわけあたえるようにふかいキスをする。
甘くせまられて頭がぼーっとすると、ナイルさんに抱き上げられて、どこかへ運ばれた。
そのあいだもキスはやまなくて、行き先を聞くよゆうがない。
そっとベッドへ降ろされたときには、もう手おくれだった。
「いっぱい鳴いていいよ、リアナちゃん。ぐずぐずに溶かして、朝まで天国にいかせてあげる。…あ、でもある意味地獄かもね」
「へ…ま、待って…っ」
「いやです、待ちません。大丈夫、最後まではしないよ。まぁ、リアナが俺をほしがって泣いちゃうかもしれないけど」
「ナイルさん…っ!」
「そのときは応えてあげる。朝までいっぱい気持ちよくなろーね、リアナ?…愛してるよ」
とろりと、はちみつのように甘く笑ったナイルさんの手によって。
その夜、私は“天国”を見せられたのでした。
[終]