【短】当方人気アイドルですが、最凶ヤクザなお兄さんにこっそりボディーガード、されてました。





「みんなー!今日は楽しんでいってね~!」




 通りを歩けば100人がふり返る、最強にかわいいアイドルと。




「うちのシマでずいぶん勝手やったみたいだな…墓場は選ばせてやる。海か、山か」




 通りを歩けば100人が逃げ出す、最凶におそろしいヤクザ。

 正反対の世界に生きる、正反対な2人が出会うと…。




「ナイルさんって、私にそういう気持ち、あるんですか…?」


「…まっかになってるリアナちゃん、ひかえめに言って抱きたいくらいかわいい」




 ぜったい秘密の恋へと発展!?




「リアナに近づく男は皆殺しにしたい。さらってでも、リアナをそばにいさせたい」




 年上ヤクザの溺愛は、ちょっぴりキケンなようです。

 ――刺激的なこの恋、のぞいていきませんか?







「こんなものひろってなにする気?そんなに夢中になる理由がわからないんだよね、オヤジもきみも。たかがアイドルでしょ?何千といる」


「か、返せよっ!それにリアナちゃんを“たかが”なんて言うな!彼女は千年に一度の美少女だぞ!」




 どうも、こんにちは。藤堂(とうどう)リアナです。

 高校2年生、人気アイドルやってます。




「あのぉ…すみません。このあたりにカギなんて落ちてませんでした?」




 街灯だけがたよりの夜道。

 おとりこみ中な2人の男性に、そしらぬ顔で声をかけると、バッとふり向かれました。




「リアナちゃん!」


「えっ」




 秒でバレた!?

 なぜっ、ちゃんとぼうしをかぶって、色付きレンズのメガネをかけて、ふだんは下ろしてる髪もアップにしてるのに!


 片手で口を押さえると、私のファンらしい男性Aさんはこっちに向かってくる。


「ごめんねっ」


「わわっ!?」




 ぱぱっと伸びた手がぼうしとだてメガネを取り上げて、うしろから羽交い絞めにされた。


 深夜にこっそり、コンビニへポテチを買いに行っただけで、なぜこんな事態に。

 ぶじに家に帰れたと思ったら、カギを落としてることに気づいて引き返したのがわるかった?

 ううん、でもカギがないと家に入れないし、マネージャーを呼び出してポテチを買いに行ったことがバレても大変だし…。




「眉毛の下で切りそろえられたぱっつん前髪!ほおのよこで切られたキュートな横髪!姫カットが似合いすぎる美少女!」


「はいっ?」




 そういえばコンビニで見た顔のような気もする男性Aさんは、私をまえに歩かせながら、とつぜん叫び出す。


「ペリドットがはめこまれていると言っても過言ではない、緑色のきらきらしたおおきな瞳!主張しすぎず、顔のバランスをくずさないととのった鼻!」




 私に興味がなさそうな発言をしていた男性Bさんは、こちらに顔を向けている。

 これは、まさかまさか。




「ぷるんとした小ぶりな唇!それらがパーフェクト比率で収まったちいさすぎる顔!ほそい手足、抜群のスタイル!これがHRSMT(ヒリスミツ)の人気ナンバーワン…」





 ごくり、とつばを飲み込んだ。




「千年に一度の美少女アイドル、“リアナ”だ!このかわいさを見ろ!全人類リアナちゃんのファンになる運命なんだ!」




 やっぱりー!

 本人を使って布教されてる!?

 こんなの初めての体験だよっ!




「リアナ…」


 男性Bさんがこちらを見つめながら、ぼそっとつぶやく。

 向こうのほうは暗くて、表情がよく見えないんだけど…目を丸くしている、ような?


 私はとりあえず、笑ってこの場をしのぐことにした。




「えへ」




 こんなの、マネージャーにバレたらお説教確実だなぁ。




「出たっ、リアナちゃんの“えへ”!かわいすぎるっ!」


「わっ!」




 男性Aさんにぎゅうっと抱きしめられて、体が固まる。

 すると、Aさんの腕が一瞬で離れて、自由の身になった。

 いったいなにが。


 きょとんとしてふり返れば、いつの間に移動していたのか、男性BさんがAさんの腕をつかんでひねりあげている。

 そしてドラマのように、首をとんとたたいてAさんを気絶させた。




「わぁ…」


「大丈夫?」


 ぐい、と男性Bさんが腰をかがめて私の顔をのぞきこんでくる。

 街灯の下で見ると、金色の髪はさらさらしていて、タンザナイトのような青紫色の垂れ目はとても澄んで見えた。

 大人びた顔立ちから推察するに、年齢は20代。


 このお兄さん、うちの事務所のどの男性アイドルよりもかっこいい…。

 思わずドキッとしちゃった。




「は、はい…えっと、ありがとうございます、お兄さん」




 笑ってお礼を伝えると、お兄さんの顔は甘くほころぶ。

 地面に落ちたぼうしとだてメガネをひろって、砂を払ってから私にかぶせると、お兄さんは私を抱き上げた。




「きゃぁっ!?」


「ごめんね、きみの顔を近くでちゃんと見たことがなくて。こんなにかわいい子だとは思わなかった」


 お姫さま抱っこをしながら、お兄さんは王子さまのように、にこりとほほえみかける。

 “かわいい”なんてみんなが言ってくれるのに、シチュエーション効果なのか、ほおがじゅわりと熱くなった。




「反応までかわいいね。純真なお姫さまは大切にしないと」




 くすりと笑って、お兄さんは私を抱っこしたまま歩き出す。

 こっちは私の家があるほうだけど…。




「あ、あの、どこに?私、家に帰りたいんですけど…」


「安心して、俺の仕事をするだけだから。すぐに帰れるよ」


「お兄さんのお仕事…?」




 なにをする気なんだろう、と思っているあいだも、どんどん家に近づいていく。

 お兄さんが足を止めたのは、私が住んでるマンションのエントランスだった。

 ぱちぱちとまばたきしている私を、お兄さんはそっと下ろしてくれる。