「記念日にかこつけて宝飾品のおねだりでもするつもりか? 大した面の皮の厚さだ」
テオドールは鼻でハッと笑う。
宝飾品を買うことは、別に負担ではない。ラフォン辺境伯領は広大かつ国境に接していることから交易も盛んでその分税収も多い。
だが、形だけの夫婦なのに記念日に贈り物を強請るその神経の図太さに驚いた。さすがは毒婦といったところか。
「お前が町の宝飾店に下見に行っていることを知らないとでも思ったのか?」
リーゼロッテとは僅かに目を見開く。まさか、テオドールがそのことを知っているとは思っていなかったのだろう。
「ご存じでしたのね」
「お前の考えていることなど、聞かなくてもお見通しだ」
「そうでございますか。それは話が早くて助かります」
リーゼロッテは唇を引き結び、ぎゅっと膝の上の手を握る。
「離縁してくださいませ」
数秒の沈黙ののち、リーゼロッテの口から漏れたのは予想外の言葉だった。
「……なんだと?」
「離縁してくださいと申し上げました。わたくし達が結婚して今日で二年。イスタールでは法律で『貴族の本家において結婚後二年経過しても子供ができない場合、当主は無条件に離縁して後妻または後夫を娶ることを認める』と定められております」