その日の晩、テオドールは日付が変わるかどうかという時間にリーゼロッテの住む離れを訪ねた。

「ようこそお越しくださいました、旦那様。リーゼロッテでございます」

 出迎えた女──この日初めて会う妻のリーゼロッテは、若く美しかった。
 流れる絹糸のような艶やかな金髪は少しだけ赤みを帯びており、テオドールを見つめるのは長いまつ毛に縁どられた薄緑色の大きな瞳だ。鼻は高すぎず低すぎず絶妙な高さで、肌は白磁のように滑らかで白い。目鼻立ちがはっきりしている上に目元が少し釣り気味なせいか気が強そうな印象を受けるが、それがまた彼女の魅力を引き出していた。

(なるほど。皆が言う通り、美人だな)

 リーゼロッテを見た人々は例外なく『美人だ』と表現するが、それも納得な凛とした美しさがあった。
 毒婦だと聞いていたのでどんな際どい衣装で出迎えるのかと半ば楽しみにしていたが、意外なことにリーゼロッテは詰襟のきっちりとした緑色のワンピースを着ている。色がもっと暗ければ、まるで家庭教師のようだ。

「あなたの妻です」

 リーゼロッテは続けて、はっきりとそう言った。その言葉を聞き、テオドールは目を眇める。

(会って早々嫌味か)

 リーゼロッテとこうして面と向かって会うのは初めてだが、彼女が二年前から自分の妻であることはテオドールも知っている。それをわざわざ口にして言う態度に、苛立ちを覚えた。

「わたくし達が結婚して、本日で二年になります」

 リーゼロッテは大きな瞳でテオドールを見上げ、告げる。