その報告を聞きながら、テオドールは投げ出していた足を組む。

「ラット伯爵家の次男で未婚かつ婚約者もおらず、年齢はリーゼロッテのふたつ上。養子に迎えるにはもってこいだな」
「ああ。事実、奥様とアドルフの婚約はオーバン公爵家からの申し入れだったらしい。奥様と結婚して、オーバン公爵家を継いでほしいと。つまり、政略による婚約だ」

 テオドールはカルロの説明に耳を傾ける。

「奥様が十五歳のときに婚約したようなんだが、ふたりの仲睦まじい様子が度々社交界で目撃されている。ふたりを知る人物も燃え上がるような恋ではないが、穏やかに親交を深めているように見えたと言っている」
「それが、結婚を目前に男側から婚約破棄か。妙だな」

 結婚すれば、公爵家を継ぐことができる政略結婚。しかも、相手は社交界でも有名な美女だ。男側からすればまたとない好条件であり、こんな良縁をみすみす手放す者はまずいないだろう。

 リーゼロッテが婚約破棄された理由は、男と親しくしていた女性への陰湿な嫌がらせ、及び、男癖の悪さだが、そのマイナス面を加味しても有り余る好条件に見える。

「ああ。だから、その噂についてさらに調査してきた。面白い証言が得られたよ」
「面白い証言?」
「シャーロット=オーバン。奥様の婚約破棄によってオーバン公爵家を継いだ、実の妹からの情報だ。彼女によると、奥様の噂は全くのでたらめだったと。後継ぎを辞退する必要などないと再三に亘り説得を試みたが、奥様は王室に睨まれた自分が女主人になるのはよくないと聞き入れなかったそうだ。そうこうすうるちにテオとの縁談がもたらされたと。聞き取りをした部下によると、シャーロットは奥様の元婚約者のことを〝権力の犬〟〝裏切り者〟と言って憤慨していたそうだ」
「権力の犬に、裏切り者……」

 テオドールはその言葉を小さな声で復唱する。〝権力の犬〟に〝裏切り者〟とは、随分と物騒な物言いだ。それだけのことを元婚約者側がしたということだろうか。

「で、彼女に言われて調べてみたら、こんなことになっている」