そこまで考えて、別の可能性に気づく。
「待てよ。得する人間がまだいる。彼女の元婚約者と、妹夫婦だ」
「え? 元婚約者はあんな美人を逃して、かつ次期公爵の座も白紙になったんだぜ? むしろ被害者だろ。妹夫婦は奥様がテオと結婚したことで公爵家を継いだんだから、可能性はあるな」
テオドールは顎に手を当てる。
元婚約者は被害者というカルロの言葉ももっともなのだが、どこかしっくりこない自分がいた。
「彼女の元婚約者は今何を?」
「その辺は調査していなかったから、再度調査するように指示しておこう」
「ああ、頼む」
退室するカルロを見送ってから、テオドールは背もたれに体を沈め天井を仰ぐ。
(もしも、最初の調査報告の内容が全くのでたらめだったとしたら──)
その可能性が極めて高いことは、すでに予想がついている。
(俺は、とんでもない勘違いをしていたのでは? 彼女は俺の仕打ちを、どう思ったのだろう)
過去を変えることはできない。
テオドールは自らの過ちを知り、ぎゅっと拳を握り締めた。
カルロはテオドールが調査を依頼した一週間後にはリーゼロッテの元婚約者──アドルフ=ラットについての調査報告を纏めてきた。