慌てて距離を取ると、「いえ、大丈夫です」とリーゼロッテは顔を赤らめたまま俯いた。

(まるで男慣れしていないな)

 顔を近づけただけでこんなにも赤面するとは。あまたの男を陥落した毒婦の欠片も感じられない。こんな赤い顔をされると、こっちまで恥ずかしくなってくる。

(これは演技なのか? それとも──)

 リーゼロッテのことを知れば知るほど、彼女のことがわからなくなる。

 テオドールはゴホンと咳払いをした。

「最近始まった少額融資の制度はきみが発案者らしいな。ほかにも色々と……商工会の会長から聞いた」
「あ、はい! こうしたらいいのではというアイデアを話すと、会長が必要な人や物を確保して前に進めてくれて」

 リーゼロッテはパッと表情を明るくすると、嬉しそうに今まで実現させたことを話し出す。
 新しい商店街、職業学校、輸入商品やラフォン領特産品のイスタール全土へのプロモーション──まだまだ出てくる事例は、たしかにここ二年ほどで次々に実現化されたものばかりだ。

「てっきり、あの会長がやり手なのだと思っていた」
「会長はやり手ですよ」

 リーゼロッテはきょとんとした顔でテオドールを見上げる。

「わたくしは、アイデアを彼に伝え、お金を出すだけです。彼はそれを聞いて、実現可能性の検討から必要な人・物を集めて実現させるところまでやってくれます。わたくしひとりではとてもできません」

 こういうものはアイデアを出すところが一番のハードルなのではないかと思ったが、リーゼロッテはむしろ周囲に感謝しているようだった。