リーゼロッテは申し訳なさそうに謝罪する。

「いい。誰にでも苦手なもののひとつやふたつ、あるだろう」
「旦那様にもありますか?」
「それを聞いてどうする」
「興味があっただけです」

 リーゼロッテは首を横に振る。そして、ふふっと笑った。

「ここに嫁いできた日のことを思い出しました。寝室に蛇が出てきて、大騒ぎした私に驚いた衛兵の方が退治してくれたんです。今日は旦那様がいてくださってよかった」
「嫁いできた日?」
「はい。部屋に案内されて、寝室を見ていたら蛇がいて──。あのときは旦那様にお見苦しいところを見せずに済んでホッとしていたのに、結局見られてしまいましたね」

 リーゼロッテは照れを隠すように笑う。 

(寝室に蛇など一度も現れたことがないが……。もしや、幻獣だけでなく蛇も引き寄せるのか?)

 テオドールは少ししゃがみ、そんなリーゼロッテの首元に鼻を寄せた。微かに甘い香りがした。それが、香水の香りなのか、リーゼロッテが生まれ持ったものなのかはわからないが。

「だ、旦那様⁉」

 うろたえる様な声が至近距離から聞こえる。顔を上げると、首まで真っ赤になったリーゼロッテがあわあわした顔で自分を見つめていた。

「……っ、すまない」