パッと顔を上げると、いつからいたのか久遠が目の前に立っていて、私に合わせるようにしゃがみ込んできた。



「な、なに…」


「二人の背中なんか押しちゃって、馬鹿じゃねぇの」



こいつはどこまで知っているのだろう。



「だって…仕方ないでしょ。朝比奈さんは嫌い。瀬名くんの好きな人なのに、自分の気持ちに鈍感でいつもおどおどしていて。私の方がずっと努力してるのに。ずるいよ。…だけど、あの人が好かれる理由もわかる。可愛いのは外見だけじゃなくて、心も綺麗だから。私みたいに嫉妬して嫌味を言うような性格悪い女じゃない。瀬名くんにずっと似合ってるよ」



ずっと堪えていた涙が、ぽろっと頰を伝って床に落ちた。


一度溢れ出てしまった思いは涙は、止まらなかった。



「私の方がずっと好きだったのに…っ。なんでよ…なんで私じゃないの…っ」



なんで瀬名くんの隣にいるのは、私じゃないんだろう。



「…おまえは誰よりも頑張ってたよ」



優しく頭に置かれた手は、じんわりと温かくてもっと涙が溢れた。


久遠は泣き終わるまでずっと私の隣にいてくれた。



「…はー泣きすぎて目痛い。絶対腫れるやつじゃんこれ」



久遠からもらったポケットティッシュを全部使い切り、かみすぎて痛い鼻を擦る。