「…あ、先輩!待って、俺ももう帰るから…」


「いいよ、みんなで帰れば?仲良さそうだし」



え…?と戸惑ったような桐ヶ谷くんに背を向けて、足早に靴箱に向かう。


自分が嫉妬していることに嫌でも気づいてしまった。



私が桐ヶ谷くんを気にしていた時間に楽しそうに遊んでいたこととか、髪の毛を下ろしているのを初めて見るのは私がよかったとか。


そんなくだらないことばかり考えてイラついて、当たることしかできない可愛くない自分が嫌だった。



それから土日を挟み三日間、桐ヶ谷くんとは顔を合わせていない。


放課後の生徒会室にも行かないようにして、休み時間に教室にくる桐ヶ谷くんからも逃げLINEも全部未読無視している。


今顔を合わせてしまったら、醜い感情まで全部溢れてしまいそうで怖かったから。



先生に日直日誌を届け職員室から戻ると、教室の前で桐ヶ谷くんとクラスメイトの女子が楽しそうに話していた。



「あはは、可愛いー」



聞こえてきた“可愛い”という単語に、ぴたっと歩き進めていた足が止まった。



可愛いなんて今まで桐ヶ谷くんから一度も言われたことなんてない。


好きって言われなくなったのも、もう私のことを好きじゃないから…?



よく考えれば簡単にわかることだ。


桐ヶ谷くんの気持ちがずっと同じなんて保証はどこにもないのに、一緒にいられる時間を壊したくなくて曖昧な関係を続けて。