「俺がとやかく言うもんじゃないけどな。今の生活が、何もしないまま続いていくと思うなよ」
「え?」
「何もしないまま壊れることだってあるんだ。そうなりゃずっと、その後悔は消えないぞ」

 あぁこれは、百合とのことを指しているのだろうと思った。カナコが言い掛けたことがあった、あの話だろう。詳細は聞かなかったけれど、百合には三十になる子供がいる。つまりは、二十歳の時には生んでいたのだ。別の男の子を。匡が後悔しているならば、そのことだろうと思った。

「ふとした時に思い出して、後悔するなんて嫌だろ? その時にはもう手遅れなんだから。だからな、宏海。言いたいことは抱え込むな。時は選ばなきゃいけないだろうけど、きちんとカナコと話せ。アイツの答えは分かんねぇけど、ちゃんと考えてくれるだろうから」

 な、と匡が僕の頭を撫でた。本当に、子供の頃のように。

 彼の言う通りではあると思う。その意見に反論する気はない。だって実際、伝えられなかった初恋を延々と引きずっていたのは僕だ。だから、いつか伝えたい。伝えなくちゃと思ってる。けれど、それはまだ……きっと今じゃない。