「僕……カナちゃんのこと、好きだよ。でもね、伝えるつもりはない」
「宏海。恥ずかしいのか何なのか知らねぇけど。カナコとちゃんと向き合ってみろよ。アイツの気持ちだって、変わるかもしれねぇだろ」
「そりゃそうだけど」
「あぁ……さては、お前フラレるのが怖いんだな」

 そんなこと、と言いかけたが、言葉尻が消えた。怖いと言えば、怖い。今の生活が壊れてしまうのも。何より、カナコが自分の手から離れていくことも。今は、生活全てを守りたいのだ。一ミリだって失いたくない。

「宏海、あのな」
「うん」
「お前、高校の時言えなかっただろ。カナコに」
「あぁ……うん」
「そのうちに会えなくなって、辛くなって、東京を離れた。で、戻ってきて数年で再会して、こんな生活が始まって……気持ちがぶり返すのは、しょうがねぇと思うんだよ。あんだけ好きだったんだから」

 子供を宥めるような穏やかな声色で、匡がこちらに向き合う。それが尚、悔しかった。

 いつでも僕の前を歩いていて、敵わない相手。大好きな初恋の人は彼ばかりを見ていた。匡と百合をくっつけたことは驚いたけれど、それでもカナコの視線はずっと彼だけだった。今みたいに、カウンターの中にいた彼に。若かりし頃の、苦しい思い出。流石にもうあの頃よりはマシだけれど、思い出すだけで胸がチクリと痛んだ。