「あら、宏海ちゃん?」
「あぁ、おばちゃん」
「元気にしてる? ちゃんと食べてるの? カナちゃんも元気?」
「うん。大丈夫。二人とも元気にしてるよ」
「良かったわ。獣医さんも忙しいものねぇ。でも二人が一緒になって、おばちゃんは嬉しいわぁ」

 急に現れた匡の母は、怪訝な顔をしている息子をよそに話を続ける。この辺のことは、だいたいどこの家も同じだろう。この年になっても続いているのかは、別として。そのうちに、もう上がれよ、と匡が怒り始めた。ほら、これもいつものことだ。

「宏海ちゃん。この子にも良い縁談ないかしらね」
「えぇ、おばちゃん。まぁくんはそんなことしなくたって大丈夫だよ」
「そうかしらねぇ。何分この子……すぐ騙されるのよ」
「はいはい。煩いから二階行って。父さん待ってるよ」
「分かりましたよ。じゃあまたね、宏海ちゃん」

 怪訝な顔を息子に見せて、ひらひらと手を振った彼女は自宅へ消えて行った。あっという間に去って行くところも、いつもの流れ。もう馴染のコントを見せられているかのようなものである。

「ほら、とりあえず飲め」
「うん。有難う」

 今日はコーヒーの方が良かったな。そう思えど、決して口にはしない。大人しく出された甘いココアを飲み、フゥと息を吐いた。この甘さに微睡んだら、きっと心も甘えてしまう。今は苦くて、ビターな味に浸って、少し自分を立て直したかった。昔からそうだったから特に何も感じないけれど、暑くてもホットココア。きっと傍から見たら可笑しなものだろうな。少しだけ、フッと口元を緩めた。