屋上へ向かって歩いていると
前から生徒が歩いてきた。

授業中なのに…俺みたいにサボってるのか？

率直に浮かんだ疑問。


だが、その生徒を見た瞬間、



…先生になんか頼まれたのか。


俺はそんな風に勝手に納得していた。

なぜならその生徒は
制服はきっちり規則通りに身につけ、
メガネをかけた女子生徒だったから。


いかにも真面目、といった表情に
いつも部屋の中で本を読んでいることを証明しているような真っ白な肌。

スポーツをやる時間もないほど
勉強をしてます、と言っているかのような
華奢で細い体。


その見た目が、俺にそう思わせたのだった。
真面目なやつ…。

そんなことをふと思い
俺はそのままその生徒の横を通り過ぎた。


と、その時___



美奈「あの…」


通り過ぎたはずの女子生徒が
俺を呼びとめた。



なんだ？


授業中ですけど、なにしてるんですか？
とか言って注意してくるのか？
なんて思いが浮かんだが


相沢「…なに？」

無視するわけにもいかないため、とりあえず答える。


すると、


美奈「…これ落としましたよ。」


差し出されたのは
自転車の鍵。


相沢「あ…」

彼女は無言で鍵を俺に握らせると、
そのまま歩いて行ってしまった。


注意、されなかったな…。


そんなバカなことを思い、
再び屋上に向かって歩き出した。


相沢「あ…お礼、言いそびれた。」

そんなつぶやきが、静かな廊下に少しだけ響いた。