風間「なるほど…ね。」


私の言葉に、会長は納得したように頷いた。


美奈「以前…山神先輩に…キスされた時…先輩、ごめん、て謝ってきたんです。」


あの時の、どうしようもないくらい悔しい気持ちを、私は吐き出した。



美奈「謝るくらいなら…そんなことして欲しくなかったです。」


他の人と重ねて…キスしたのなら
なおさら傷つく。


風間「たぶん…帝は、美奈ちゃんと沙羅を重ねている。」


美奈「…」


風間「沙羅を守れなかった後悔や、愛しいと気持ち、全てに歯止めが効かないんだ。」


美奈「…」


風間「…ごめんね…」


美奈「なんで会長が謝るんですか。悪いのは会長じゃないです。」



どんなに悔しい思いをしても
さっきの話を聞いてしまえば、


"悪いのは山神帝だ"
なんて言えなかった。



風間「…美奈ちゃんはやっぱり…沙羅に似てるね。そういう…見えない優しさも…。」


美奈「…」


風間「できるかぎり、帝が暴走しないように、俺も気にかけてみるよ。美奈ちゃんに迷惑がかからないように。」


美奈「…ありがとうございます…」


風間「ただ…」


美奈「…?」


風間「俺は…帝を救えなかった。」




そう言った会長の瞳は、
見たことがないほど悲しみで揺れていた。


風間「帝は今でも自分を責めている。大切な人を守れなかった自分を。俺は…親友が傷付いているのに…何もできなかったんだ。」


美奈「…」


風間「美奈ちゃん…」


美奈「なんですか…。」


風間「無理なお願いをしていることは承知の上で、君に頼みたい。」


遠くで、
お昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえる。


風間「帝を…助けてあげてほしい。」


チャイムの音と重なる、会長の想い。


美奈「ッ…」



一体…どうすればいい?
私なんかに…何ができるのだろう。


頭を下げる会長に、
私は何も言えなかった。