土曜日の朝。
白石家にもう何度目か分からないチャイムの音が響いた。
「お届けものでーす」
私は部屋着のまま、ハンコを片手に、配達のお兄さんから大きな箱を受け取った。
「あ、もう一つあります!」
お兄さんは駆け足で車に戻り、今度は片手で持てるサイズの箱を持ってくると、私が抱えている箱の上に乗せた。
「以上です。ありがとうございました!」
休日のまだ朝の早い時間だと言うのに、配達のお兄さんは元気よく挨拶をして帰って行った。
私はよろよろとリビングへと戻った。既に腕がしびれている。
「まどか。もうこれで最後だと言って。お願い」
リビングの床に座り、テーブルやラグの上に山積みになっているプレゼントの山を確認しながら妹は言った。
「そうね。そろそろ終わると思うわ」
私は大きな箱を床に下ろし、ソファーに倒れ込んだ。
「何、この異常な数のプレゼントは!」
週末日課にしている早朝ジョギングから帰宅し、昼まで寝ようとしていた矢先、8時を過ぎたあたりから、まどか宛てに届くプレゼントが後を絶たない。一斉に持って来てくれればいいものの、両親は世界各国、日本中からプレゼントを送ってくるらしい。配達が来る度に対応していた私は、11時の時点でクタクタに疲れ果てていた。
お昼前に最後のプレゼントが届き、やっと白石家に静寂が訪れた。
数時間後には、藤堂家に行かなくてはならないのに、もはや体力は残っていない気がした。
「これ、どうするの?」
プレゼントの包み紙をビリビリに破き、中身を確認している妹に向かって私は言った。
「まず仕分けしてから」
妹は外箱を念入りに調べ、二つの山を作っていた。そして、大きな山の方を指さした。
「こっちは売る」
私は開いた口が塞がらなかった。
「え、売るの?」
妹が差している山には、最新のゲーム機や、大きなぬいぐるみ類、可愛らしいルームランプや、超高級ブランドのバッグや小物、美顔器や最新のドライヤーなどがあった。
「何か欲しいものある?あったら、持って行って」
「いや特には…」
誕生日のプレゼントにしては奮発しすぎではないだろうか。
(美顔器とか、まどかに必要…?)
理解に苦しむ物品もいくつか含まれている。ショッピングでストレス発散している母親が、まどかに押し付けているようにも思える。
「でも勝手に売ったら、怒られない?」
ブランドバッグを持ち上げ、私は聞いた。
「いつどこで何を買ったか覚えてないわ。いい物があったら、誕生日に合わせて送ってもらっているだけだもの」
冷静に妹は言った。
「これらはあり難く頂くわ」
そう言ってまどかは、リビングが埋まるほどのプレゼントがあると言うのに、数個のプレゼントだけを腕に抱えた。最新のスマホやタブレット、そしてヘッドホンなどの機械類だ。
「残りは売って、どうするの?」
二階へ向かおうとしていた妹は足を止めた。
「買いたいものがあるの」
「何?」
欲しいものがあるなら、両親に言えば済むはずだ。あの母親なら喜んでまどかの欲しいものを買ってくれるだろう。
妹は一瞬口を開いたが、笑顔を作って言った。
「手に入ったら、言うわね」
私は何だか嫌な予感がした。
「き、危険なことはしない約束でしょ!」
るんるんで自室へと向かうまどかの背中に向かって、私は叫んだ。