部屋に静寂が訪れた。
しばらくの間、すぐ戻ってくるのではと警戒している私たちは動けずにいた。
数分が経ち、私は道具入れの扉をゆっくりと開けた。
未だに心臓がドキドキしているが、怒りの方がまだ収まり切れていなかった。
「危なかったな~」
「焦った」
上手に隠れたのか、蓮見と五十嵐も奥の方から出て来た。
久しぶりにハラハラしたと、どこか楽しそうにしている蓮見が、無言で立っている私と天城を見つめた。
「二人とも、どうした?」
「なんでもないわ」
私は部屋から出て行こうとするが、天城は素早く私の手首をつかんだ。
「今のは、一体どういうことだ?」
いつもより声が低くく、怒っているのが見て取れた。
「なぜ知っていた?」
「あなたには関係ないことよ」
睨みあっている二人の様子を見た、蓮見が慌てたように言った。
「おいおい、またケンカかよ!」
「お前、まるでペンキ缶が何に使われるか…」
天城がそこまで言いかけたところで、私は天城の口を手で塞いだ。
「それ以上は詮索しないで。お願い」
私はそう言い、五十嵐に鍵を返してから部屋から出て行った。
扉が閉まるとすぐに、蓮見が口を開いた。
「海斗。白石ちゃんの、どういう意味?」
天城ははあと大きなため息を吐くと、近くにあったパイプ椅子に腰かけた。
「なんで、アイツはあんなに強情なんだ」
「お。キレてる」
にやりと笑いながら、蓮見も椅子を持って来て天城の近くに座った。
「なんかあった?白石ちゃんと」
「何もない。言ってくれないから何も出来ない」
「彼女には、僕たちには想像できない深い秘密がありそうだね」
どこか楽し気に五十嵐が言った。
「面白い」
天城が鋭い視線を向けると、五十嵐は肩をすくめた。
「別にいいじゃん。もう婚約者じゃないんだし」
「何も言ってない」
「目が言ってる」
「言ってない」
「言ってる」
「え、なになに!俺も入れてよ~!」
蓮見が天城に飛びついた時、ドアがガチャリと開いた。
「え、なんでまた鍵が開いて…」
当惑した表情の用務員と、蓮見の目が合った。
「やべ」
「き、君たちダメじゃないかー!」
用務員室に大きな声が響いた。