「……あたしが天馬に行くって、みんなに話した?」

「一応、適当にな。慶だっけ?あいつ、最後の最後まで俺に疑いの目ぇ向けてたな~。何だかんだ言ってお前のこと心配してんじゃね?」


慶があたしの心配かぁ……だと嬉しいけど。


「あ、九条」

「んあ?」


車に乗り込もうとした九条を呼び止めた。


「やっぱこれ……あんたに貸し的なもの作るの嫌だし」


あたしは九条に4000円を差し出した。すると、チラッとその4000円を見て、何もなかったかのようにスルーして車に乗り込んだ。


「ちょっと!」


ウィーンッと車の窓を開けて、あたしをジーッと見つめている九条。



「悪くなかった」

「え?」

「悪くなかったってこと」

「はい?」

「だぁから、美味かったっつってんの」


面倒くさそうな顔をして、あたしのことを褒めるのがどうしても気に食わないって感じ。

思わずクスッと笑ってしまった。最初から素直に“美味しかった”……そう言えばいいのに、なんで遠回しな言い方で言ってくるかなぁ。


まぁ九条の性格上、人を褒めたりするのが苦手なのかも?


「チッ。ま、あんな安物であんだけ作れれば悪くないんじゃない?庶民にしては上等でしょ」


偉そうな顔をしている九条に不思議とイライラもしないし、言い返そうとも思わない。これは……“美味しい”って褒められたから?だとしたら、あたし単純バカすぎるでしょ──。