「なあ、これとかいいんじゃね?やっすいし」


九条が指を指した先に置いてあったのは、約1万もする牛肉だった。しかも、そんなに量が入ってないっていうね。


「あのさ、あなたの金銭感覚とこちらの金銭感覚は天と地ほどの差があるの。これは""めっちゃ高い""です」

「ふ~ん。貧乏人って大変なんだな~」


全く悪気の無さそうな顔をしている九条に、何かを言い返す気も失せた。

・・・・まぁ、それもそうか。生まれ育った環境が違いすぎるもん。九条の普通はあたしにとって異常で、あたしの普通は九条にとって異常ってこと。


「安い材料でどれだけ美味しい物を作れるか……そこがポイントなの」

「へぇ~。いかにも貧乏人の発想って感じだな」


うん。これもまた悪気の全く無さそうな顔してるわ。


「あの、お願いだから家族の前で、その何食わぬ顔をしながら失言するのだけは勘弁してね」

「俺って嘘つくの苦手なんだよね~。思ったことがポロッと口に出ちゃうタイプ的な~?」

「でしょうね」

「いや、お前も大概俺と変わらんっしょ」

「は?一緒にしないで」


そんな言い合いをしながら、周りの視線が痛いほど突き刺さりつつレジへ向かった。


「3590円になります」


うわぁ……やっぱそうなるよね~。かなりの出費だなぁ。そう思いながら財布を取り出した時だった。


「これで」

「クレジットカードですね~。こちらに差し込んでくだ~い」