「え、あ……は、はい……よろしくお願いします」


それから霧島さんが多くを語ることはなかった。不思議と車内の沈黙は苦痛ではなく、むしろ心地いいと言っても過言ではない。

霧島さんっておそらく20代後半くらいだと思うけど、やっぱり“大人の男”って感じで、ひとつひとつの仕草や動作に落ち着きがあって、素敵な人だなって思う。この人と一緒に居ると妙に落ち着くなぁ。


「こちらが九条のお屋敷になります」

「……」


──── “絶句”……この一言に尽きる。
 

これ、本当に同じ生き物(人間)が住む家なのだろうか……。圧倒的身分差を叩きつけられて、無駄に哀れになるあたしの立場ってものを考えて欲しい。いや、ここまで圧倒的身分差が露骨になると、むしろ何も思わないというか、清々しいかもしれない。


「あの、霧島さん」

「なんでしょうか」

「これが……""家""ですか?」

「はい。ちなみに離れはもう少し先になります」

「……へえ」


門扉から家までの距離がまず遠い。そして、九条が居る“離れ”は目視で確認できる位置にはない。


・・・・どんだけ広いのよ、ここ……。


車で敷地内を移動して連れて来られたのは、母屋に比べると小さいけど、十分すぎるほどご立派なお屋敷だった。