でも、こいつの場合は違う。もしかしたら殴られるかもしんない。そっちのドキドキと緊張の方が遥かに勝っている。

さすがの九条も女に暴力を振るうことはないと思うし、ないと信じたいんだけど、死ぬほどクズだった場合……殴られる可能性が捨てきれない。


「ご、ごめんなさい……っ」


腕で顔をカバーして、とりあえず顔を殴られることだけは何としてでも阻止する。

すると、掴んでいたあたしの頬から手を離して上から退くと、ドスンッとベッドのフチに腰かけた九条。あたしもゆっくり起き上がった。


「……さすがにそんな反応されると傷つくんですけどね~」


チラッと九条の方を見ると、脚を組んで太ももに肘をつき、手で頬を支えながら何となくムスッとしている。


「……ご、ごめん」

「お前、俺が殴るとでも思ったわけ?」

「いや、そんなことは……ごめん。少しよぎった」

「はぁーーあ。信じらんないわ。俺を何だと思ってんの?」


──── 俺様暴君御曹司。


「控えめに言って“ヤバい人”……かな?」

「やっぱお前、普通じゃねえな」

「は、はあ……」


立ち上がってあたしを見下ろす九条。


「さっさと準備しろ」

「え?」

「じゅーんーびー」

「いや、なんの?」

「俺の格好見て察してくんない?……制服着ろって言ってんの」

「は、はあ……なんで?」

「だぁから、今から天馬行くぞって言ってんだけどー」