目の前にいる男は。

ふ~んとわたしを観察するように見る。

そして。

「おい。お前、名前は?」

「翼《つばさ》……」

「苗字は?」

「残念ながら、そこまで言えません」

「ふぅん、まぁ、いいや」

男はニヤリと笑い、唇を舐めた。

「お前ーー、翼チャンが代わりに相手してくれるってんなら、

この女を諦めてやってもいいぜ」

わたしは深呼吸してから。

「いいですよ、何でも言うこと聞きます」

すると、周りを囲っていた男たちが、ざわつく。

真正面の男は、笑い声をあげた。

「今、“何でも”つったなぁ」

「そうですけど」

「男に、そのセリフ言う意味、わかってんの?」

グイっと顎を持ち上げられて。

嫌でも、視線と視線が至近距離でぶつかる。

心臓が、ドクドクと。

嫌な音をたてて、暴れるけれど。

わたしは、必死で平常心を装った。

「へぇ~、俺たちを前にしてそんな目ができる

なんて、よっぽど人助けが好きなんだねぇ、

翼チャンは~」