「やだ……! やめてくださいっ!」
「お姉ちゃん胸、大きいね~」
男たちが、鼻の下をのばしながら。
女の人の胸元に触れようとする。
夜の“黒猫の街”では、常にこの光景があたりまえ。
“危険”と、“暴力”と、“冷酷”。
その証拠に、ピンチになろうが、誰も助けない。
無視同然、関わらない。
これが、この街の暗黙のルール。
……なんだけれど。
このままじゃ、本当に女の人がヤバい事になってしまう。
いや、既になっているんだろうけれど。
ううん。
わたしは首を横に振った。
……帰ろう。
肩に掛けた鞄の取っ手をギュッと握りしめて。
わたしは踵を返した。
男に絡まれている、女の人の横を。
わたしは、通行人に交じって、素知らぬ顔で通り過ぎた。
はずなのに。
「いやあぁぁぁぁっ!!!」
女の感高い悲鳴で。
わたしは思わず振り向いてしまう。
女の人は地面に倒れ込んでいて、上半身は何も
身に着けていなかった。