“黒猫の街”は。

月があってもなくても。

常に危険に満ち溢れている。

わたしは。

この街に、重々承知で足を踏み入れた。

つもりなのだけど。

ここで幸せや喜びを求めることは。

絶対してはいけないのに。

わたしがわがままだったから。

わたしがまだ子供だったから。

誕生日だなんて浮かれてたから。

大切な友達を傷つけることになってしまった。

***

わたしが玄関の鍵をあけると。

目の前には、背の高い男ーー、京野さんがいた。

両耳にピアスをつけた京野さんは。

「お、翼ちゃんじゃん! 遊びに来てたなんて

俺、全然知らなかったわ!!」

と気さくにわたしに言う。

「ど……、どうも。お邪魔してます」

「そういえば、花梨はいる?」

わたしの体のどこからか、ギクッと音がした。

「え、えぇと。その……、今は出かけていて居ないんです」

わたしはとっさに嘘をついた。

「はぁ? あいつ、また俺に黙ってどっか行きやがって」