瞬間。
タバコを片手に、桔梗原と名乗った男が。
もう片っぽの腕でわたしを支えてくれた。
密着するわたしの体と彼の体。
タバコに交じって。
ほのかなシトラス(香水)の香りに。
思わず、わたしはドキッと胸が高鳴ってしまう。
ドキッ?
いやいや、なんなのドキッて!?
わたしは思わず、慌てて彼から離れた。
目をぱちくりさせて、わたしを見る彼。
「ど、どうなってるの? わたし、男嫌いなはずなのにーー」
そうわたしは言いかけてハッとした。
彼は眉をひそめて、口を開いた。
「男嫌い? お前、男が嫌いなのか?」
「う、うん。昔、わたし気が弱かったせで、よく男子にいじめ
られて、それ以来……」
「ふーん」
話を聞いてるのか聞いてないんだか、わからない彼は。
タバコを地面に足でつぶした後。
再びバイクに跨った。
「じゃあ、俺はもう行く」
「へ……? あ、あの」
「もう二度と人助けなんかすんなよ」
「!! もしかして見てたの……?」
「ああ。丁度、店の窓からお前と男たちが言い合っている姿が
見えたんでな」