「……あんたに言われても、

嬉しくもなんともないんですけど」

わたしは鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「俺は、桔梗原 琉叶《ききょうはら るか》」

「え……、桔梗原ってもしかして」

「なんだ、お前知っているのか?」

「知ってるもなにも、“黒猫の街”に出入りしている人

なら誰もが耳にしてるよっ……!?」

焦るわたしをよそに、男はタバコを1本口にくわえて。

男は、カチッとライターで火をつけた。

「わたしが知る限りでは確かーー、

有名な暴走族、“今宵魔《こよいま》“の最強総長って

噂されてる人」

心臓がドクドクと嫌な音をたてる。

この人が、今宵魔の……?

でも、もし本当ならーー。

わたし、とんでもない人に助けてもらっちゃったかも……。

一方、男は、白い煙を吐いて。

明らかに興味なさそうな表情をしている。

「ねぇ、あなたは本当に“今宵魔”のーー」

『総長なの?』と、聞く前に。

わたしは、膝がカクンと折れた。

安心したせいだからだろう。