凛ちゃんの温もりを感じながら、俺は歩いた。

凛ちゃんは、雨の下、俺に自身のパーソナリティ障害の話をした。

俺はそれを受け止めた。


「だから、私、感情表現が苦手で、感じることができない感情もある。そして人と話すことに過度に恐怖を感じるの。突然悲しくなったり、情緒が不安定になったり、ってことも多いかな。」


彼女は、華奢な体に、どれほどの傷を負ったのだろう。

俺には分からない。分からないけど、それを認めて、共感することくらいはできるだろう。


「着いたぞ。」


大きな門が見えた。


「ありがとう!」


凛ちゃんは元気よくお礼を言った。


「凛ちゃん。」

「何?」

「はい、これどーぞ。」


俺は凛ちゃんに、左手に持っていた紙袋を渡した。


「あっ…ケーキ!」


凛ちゃんが目を輝かせる。


「給料だよ。」

「え?マジ?」

「うん。マジ。」

「嫌だよ…?ちゃんとお金くれるよね……?」

「冗談冗談!間に受けないでよ。あはは」

「わぁ、意地悪だこの人。」


凛ちゃんはちょっと頬を膨らませた。


「じゃあね。」


去っていく凛ちゃんに手を振る。


「うん!!明日も行くよ!」


凛ちゃんが手を振りかえす。


「よろしくなー!」


あさがお園の大きな扉が閉まった。

隣には、まだ、凛ちゃんの温もりが残っているようだった。