「私ね、いじめられていたんだ。」


手が止まる。

凛ちゃんを見ると、彼女は顔を俯け、その綺麗な顔には影が落ちていた。


「あのね、私、親がいないんだ。」


俺は、その言葉に、どうしていいのか分からず、ただ、凛ちゃんを見つめた。


「今はね、児童養護施設にいるの。この近くのあさがお園ってところ。」


っ…!

そこは、瑠衣がいたところじゃないか…!

そんな言葉が喉まで出かかって、俺は慌てて言葉を引っ込めた。

『俺の生い立ちは誰にも言うな。』

そう言った瑠衣の顔が頭に浮かんだからだ。


「色々あってね。親元を離れるようになって。その頃には私の精神障害は完全に完成していた。元々人とうまく喋れなくてさ、それに親元を離れたことが悪い形で学校に広まっちゃって。ひどいいじめを受けた。」


そう言う彼女の顔は辛そうで、俺は彼女の肩にそっと手を置いた。


「人間不信になっちゃてさ。あはは。」


なぜ彼女は今そんな話をしたのだろう。

なぜ、無理に笑っているのだろう。

崩れそうな凛ちゃんを、抱きしめてやりたかった。

でも、出会って日の浅い、得体の知れない男に抱かれたら、気持ち悪いの極みだろう。

俺は、そっとその気持ちに蓋をした。


「私、今でもなぜか暗いところがすごく怖いんだ。」


凛ちゃんがそう言って笑った。