その時、蓮ちゃんと竜司くんが喚き合う中、私の耳はドアの鈴の音を聞き取った。


「お客さん!!」

「お?マジ?凛ちゃん耳がいいんだな」


この地獄耳が役に立つとは。

苦笑しながらも、私は実質初めての客を迎えるために、カウンターへと走った。

スケッチブックを開く。


『いらっしゃいませ』


レタリングされた文字を胸の前で掲げて、微笑んだ。

うまく、笑えているよね…?

頑張らなくちゃ。


「え…??」

「は…??」


あ……あれ…?

そんな不安な私の感情を打ち砕く、2人の客の声。

1人はパーカーとジーンズのラフな格好をしている。
ふわふわと跳ねる髪の毛が可愛らしいが隙のない目が特徴の男の人だ。

もう1人は、アイロンのかかったワイシャツにスラックスというきっちりとした格好。
美容室で整えたような綺麗な髪の毛と曇り一つないメガネの奥から覗く切れ長の目が美しい。

そんな2人が私を見つめて、表情をこわばらせている。

恐怖で足がすくむ。

私、何かしてしまったのだろうか…。

分からない。もしかして、私がスケッチブックでコミュニケーションを取っていることが不思議なのかな…。

私は震える手でスケッチブックを数ページめくり、『私は上手く話せないので文字を使わせていただいております』と書かれたページを見せる。

しかし、彼らは訝しげな顔をするばかりだった。


「おい…嘘だろ…」

「そんなことあるかよ…」


チラチラと私を見ながら、コソコソと話す彼らが、怖い。

た…助けて…